(H27年07月25日)
二次設計の規準を考える(その1)
座右の友として昭和56(1981)年に発行され、平成2(1990)年に改訂された「建築耐震設計における保有耐力と変形性能(1990)」の茶色本を用いていましたが、低層建物から高層建物まで広く鉄筋コンクリート構造が適用されるようになりました。
応力解析の手法も構造計算一貫プログラムの普及により、「増分解析」が主流となり茶色本での記述に、より具体的な計算規準が求められて今回の保有水平耐力計算規準(案)・同解説の刊行です。
1981年発行から35年、1990年改訂から26年の歳月を費やし、度重なる「極めて稀の
地震被害」もあり、被害の原因調査・研究の結果を知見に取り込みながら実務者の意見も
日本建築学会では求めています。今春(4/14)の熊本地震では深度7の烈震を2度も受けて
おり基本的な外力想定のあり方も今後は考慮されてくるはずです。
思えば、「新耐震」となった時、いわゆる昭和56(1981)年の「建築基準法施行令の一部を
改正する政令」において、大地震に対する建築物の安全性を確認するため、建物各層の
保有水平耐力および構造特性を表す係数Dsを評価すべきことが定められたのです。
しかし、当時のほとんどの実務者は「構造計算一貫プログラム」に頼り、ただルート3の演算をデータ処理させていただけの記憶があります。
難易度についての深い思考に配慮も少なく、審査側も法令に義務付けてある規定の処理に重点をおき、中身の把握の出来る方はごく一部の実務者に限られていたように思えました。
しかし、平成19(2007)年の「耐震偽装」を受けて二次設計の内容把握はとても厳密に
行われることとなり、法に適合しているか専門的知識のある実務者に協力を求めたのが
「適合性判定」であり、本来は「建築主事」「確認検査員」が担う実務項目であったはず
ですが、高度な専門的知識の涵養に遅れのあったことが露呈してしまいました。
(H28年08月05日)
二次設計の規準を考える(その2)
度重なる「極めて稀の地震被害」もあり、大地震に対する建築物の安全性を確認するには建築物の崩壊に至るまでの「動的弾塑性応答」を究めることなのです。この「崩壊に至るまで」の途中経過や時系列変化の追求こそ、二次設計であり、非線形解析となり高度な
専門的知識の涵養が求められます。また、「動的設計法」については下記の通りである。
すなわち、地震などの外乱を受ける構造物の動的な応答量を調べて、解析し、構造物の
安全性を確かめ、必要な構造設計を行うことに尽きる。ならば、「動特性」の理解もいる。
一般には、入力と出力の関係を時間の変数として扱って解析される系の特性であり、入力である外乱と出力の応答に読み替えれば理解出来るが、振動解析理論が前提となります。
日本建築学会では、構造標準委員会に属する各種構造分科会があります。その中からの
論評に「二次設計」をテーマして参ります。是非、専門用語の理解をして頂きたいです。
弾塑性地震応答とは
弾性域と塑性域をもつ復元力特性の振動系が外乱を受けて示す応答である。
この地震応答と各種部材・骨組の復元力特性に関する理解が必要となります。
復元力特性とは
振動解析において、各部のバネの性質を示す変形と荷重(いわゆるδ-Q)の関係である。
これには、線形・非線形の別があり、弾性範囲内では通常直線で示され、弾塑性範囲ではバイリニア(2本線)やいくつかのトリリニア(3本線)、さらに履歴ループの特性を考慮した
ものが用いられています。
我が国の「新耐震設計法」は世界でもっとも先進的な耐震設計法として定着してきたが
度重なる「極めて稀の大地震動」に遭遇しており考えさせられる課題も多いのです。
(H28年08月15日)
二次設計の規準を考える(その3)
鉄筋コンクリート構造の保有水平耐力計算に関して具体的に記述された計算規準(案)・同解説として今回の刊行となったものについての論評いたします。
我が国の「新耐震設計法」は世界でもっとも先進的な耐震設計法として定着してきたが
度重なる「極めて稀の大地震動」に遭遇しており考えさせられる課題も多いのです。
常に「歴史から学ぶ」、「前例から学び」そして「ポーターラインの設定」となる。
限りある資源・環太平洋の断層に沿って島弧列島にある我が国、地震は避けて通れません。
東南海・南海プレートの「ひずみの蓄積」も相当たまっているとのメディア報道もあり
私達技術者には、常に「知見の涵養と蓄積」による設計への適切な取組みが必要です。
以下に今回刊行の「要点ポイント」を講習会講義補助資料より列記いたします。
【現状の課題と対応】
・増分解析の解析終了時において崩壊形が未形成の階がある。
・全体崩壊形において各階のDs値が異なる。
・高強度鉄筋コンクリート構造の実験結果を反映した部材種別の判別方法がない。
【規準の3つの特徴】
・最近の研究成果に基づく増分解析による計算。
・高強度材料も含めた梁、柱、壁の部材種別評価。
・全階同一のDs値による全体崩壊形の保証設計。
【規準の要点】
・全体崩壊形を推奨し、所定の部分崩壊形を範囲に含む。
・全4つの適用ルートを設定する。
・崩壊形形成時応力を算定する。
・工学的な判定指標による新たな部材種別判定法を提示する。
・崩壊形の保証設計を提示する。
(H28年08月25日)
二次設計の規準を考える(その4)
鉄筋コンクリート構造の保有水平耐力計算に関して具体的に記述された計算規準(案)・同解説として今回の刊行となったものについての論評いたします。
(その3)に続き、今回刊行の「重要な大項目」を講習会講義補助資料より列記いたします。
【適用範囲】
・保有水平耐力計算によって大地震動に対する安全性を確認するために使用する。
・下記に示すRC造建物に適用する。
- 高さ60m以下の建物
- 4章に規定している材料を使用している建物
- 許容応力度計算が別途行われている建物
・特別な調査研究により本規準と同等の構造性能が確認できる場合には、本規準の一部の
適用を除外することができる。
【本規準の目的】
・RC造建物では、3つの性能を確保する。
・RC規準(2010) → (a)「使用性」、(b)「損傷制御性」の確認
・本規準 → (c)「安全性」の確認
・「安全性」→ 数百年に1回遭遇する程度の大地震が生じても、建物の転倒、崩壊を防止し人命の安全を確保できること。⇒ (今春の熊本地震対応は?となる)
・本規準は増分解析を用いた保有水平耐力計算の一つの方法を示すことを目的とした
ものである。⇒ (他の方法論による場合対応は?となるから)
その他、細部にわたり本規準に留意事項もあります。適用範囲には「4つの適用ルート」
すなわち、その4つとは「A、B、C、Dルート」である
「靱性抵抗型」= 全体崩壊形・梁曲げ破壊 →「Aルート」
= 部分崩壊形・梁曲げ破壊 →「Bルート」
「強度抵抗型」= 部分崩壊形・曲げ破壊 →「Cルート」
= 部分崩壊形・壁せん断破壊→「Dルート」
この適用ルート把握には、「崩壊形」「柱の脆性破壊無し」の判定が必修となります。
結果的に、「A~Dルート」の選択により「Qu」「Ds」「Qun」となり「Qu≧Qun」の
確認によってENDとなります。
(H28年09月05日)
二次設計の規準を考える(その5)
鉄筋コンクリート構造の保有水平耐力計算に関して具体的に記述された計算規準(案)・同解説として今回刊行となったものについて引き続き論評いたします。
(その4)に続き、今回刊行の「適用範囲の細部」を講習会講義補助資料より列記いたします。
【崩壊形と構造特性係数】
・法規定に基づいて構造特性係数を規定(Ds=0.3~0.55)しているが、あらゆる崩壊形を対象
とはしない。⇒ (今回の刊行の重要な部分である)
・全体崩壊形を推奨し、一部の部分崩壊形に適用
【適用ルートの崩壊形と保証設計】
・適用ルート別の保証設計 → 崩壊形の確定。
※この内容はとても重要であり本基準P-45の解説表1.1のマトリックス表の理解である。
とくに、×印の「許容しない」は設計者として抑えるポイントである。
【適用範囲の留意事項(2)】
・Bルート(部分崩壊形・梁曲げ破壊型)の保有水平耐力に関して
崩壊層の保有水平耐力に余裕を持たせるなど設計的な配慮が必要である。
・Cルート(部分崩壊形・曲げ破壊型)の保有水平耐力と崩壊形の確認に関して
崩壊層の水平剛性や変形能力の確保とともに保有水平耐力に十分な余裕を持たせるなど設計的な配慮が必要である。⇒ (十分な余裕となっている部分が重要である)
崩壊層が少数層の場合、時刻歴地震応答解析などによる耐震安全性の総合的な検証が
求められる。⇒ (超高層建築物と同様な扱いである)
※この内容から、いかに「全体崩壊形」が望ましいかを設計者は理解する必要がある。
(H28年09月15日)
二次設計の規準を考える(その6)
鉄筋コンクリート構造の保有水平耐力計算に関して具体的に記述された計算規準(案)・同解説として今回刊行となったものについて引き続き序章の部分のみ論評いたします。
(その5)に続き、今回刊行の「適用範囲の細部」を講習会講義補助資料より列記いたします。
あくまで、序章ですから各自、本規準の内容把握は実務にも大変役立ちます。
また、連載内容は2016年4月15日 第1版第1刷によるものであり記載設計例などの
「正誤」も考えられます。
【適用ルートと崩壊形】
・適用ルート → 崩壊形と構造特性係数Ds値による区分
「Aルート」→ 梁曲げ破壊型全体崩壊形 ⇒ これが「推奨」される。最優先!!である。
「Bルート」→ 梁曲げ破壊型部分崩壊形 ⇒ 大半が「崩壊層」である。
「Cルート」→ 曲げ破壊型部分崩壊形 ⇒ Ds = 0.55、時刻礫応答解析などで総合判断です。
「Dルート」→ せん断破壊型部分崩壊形 ⇒ Ds = 0.55である。
※この内容はとても重要であり本基準P-45の解説表1.1のマトリックス表の理解である。
とくに、×印の「許容しない」は設計者として抑えるポイントである。
【適用範囲の留意事項(3)】
・ピロティ構造の当面の取扱いに関して
現在研究が精力的に実施されている段階であるため、本規準では関する具体的な計算
方法を規定していない。そのため、現時点においてピロティ構造に本規準を適用する
場合には、構造実験や時刻歴地震応答解析などによりピロティ階の耐震安全性を総合的に検証することが求められる。
総合的な耐震安全性が検証できる場合を除き、当面の間はピロティ構造には本規準を
適用しない。⇒ 当然の「考え方」である。
※この内容から、いかに「全体崩壊形」が望ましいかを設計者は理解する必要がある。
「せん断破壊は命取り」であることをしっかりわきまえ、意匠・構造・設備設計の分野
において共通の認識をもち「説明責任」の出来る内容とすべきである。
「安易なピロティ構造の採用」はやめて頂きたい。災害が起きてからでは遅い。
今後の「熊本地震の復興」での「公共建物」であっても「ピロティなし」を望みます。
常に、最新の知見を身に付け説明責任を果たせるように各自の努力を望みます。