(H27年09月05日)
≪第1回≫耐震設計のポイントを考える(その1)
地震国である「日本」における構造骨組の「構造骨組解析の基本」は、「変形の把握」
である事は、告示第593号に示されています。
現時点での法体系は、その変形の対象は水平系成分であり、上下動をも考慮した先進的な
合成ベクトルによる「応答解析」もいずれ組み込まれて来ると考えます。
「構造骨組解析の基本」において、解析の仮定条件と設計手法を取り上げます。
ご存じのように、我が国では「弾性設計」と「塑性設計」の二段階設計である。この為
RC造部材の剛性評価は「弾性設計」では「ひび割れ前の初期剛性の採用」である。
梁など水平部材においては、床スラブを考慮したT字型の部材剛性を協力幅によって
割増しています。これは、日本では「耐震壁付き」のラーメン骨組が多く、このあと色々
細部にわたって論じますが、「耐震壁の解析仮定」とか「解析手法」によって負担する
「せん断力の変化」となり、ラーメン骨組の応力変化に直結して設計者それぞれの
「耐力壁の捉え方や考え方」が解析の次元によって相当敏感になるのです。
しかし、この事は「保有水平耐力計算」によって安全性の確保をしていながら、日本
建築学会のRC構造計算規準第8条の規定に縛られているだけなのです。
米国や他の国では、以前にもセミナーで述べさせて頂いたように「純ラーメン構造」が
殆どであり、応力再配分を許容した非弾性設計を進化させたオートストレス設計法の
「終局型のLRFD設計法」=荷重抵抗係数設計法(Load and Resistance Factor Design:
LRFD法)により梁の剛性は、終局時を想定して1/2にしていますので、我が国との解析
仮定上でのRC造の梁の剛性は4倍の違いとなります。
我が国では、「黄色本」に代表されるように「技術基準」がありますので、これに沿って
耐震設計のポイントを論じて参ります。
掲載日:2012年09月04日
≪第2回≫耐震設計のポイントを考える(その2)
日本では「耐震壁付き」のラーメン骨組が多く、このあと色々細部にわたって論じます
が、「耐震壁の解析仮定」とか「解析手法」によって負担する「せん断力の変化」となり、
ラーメン骨組の応力変化に直結して設計者それぞれの「耐力壁の捉え方や考え方」が解析
の次元(2次元の平面解析、3次元の立体解析)によって相当敏感になるのは当然です。
何故なら、「耐力壁の配置」ひとつとって見ても「連層の連続配置」とか「平面配置」にも
基本的な「モデル化」と直結してくるのです。2次元の「×形状配置」なら「ブレース効果」
もあり構造計画上推奨出来ますが、ほとんどは「不規則な、かつ不連続なアトランダムな
配置計画」であるがゆえに困るのです。
現在多用されている一貫計算ソフトによる「耐力壁のモデル化」は「壁エレメント法」が
主流であり、この方法では上記のような「アトランダム配置」の「線材置換」において
「耐力壁の捉え方や考え方」が現実性に疑問を呈するのです。当然、「耐力壁の脚部」に
おける「ピン支点」の設定にも支障をきたします。そこに、「意匠設計者」と「構造設計者」
の工学的理論の理解の乖離が発生してしまうのです。だからこそ、両者がクライアント
からの「計画依頼の段階」からの「協働設計」が避けられないはずです。
この事が「実務上の最大の落ち度」であって、共に「一級建築士」であるなら「職業意識」
によって安全性の説明責任を果たさねばならない事を再認識すべきです。
何度も同じ繰り返しになりますが、「すばらしいデザインは、すばらしい構造でなければ
すばらしくない」を肝に銘じて頂きまして、我が国では、「黄色本」に代表されるように
「技術基準」がありますので、これに沿って耐震設計のポイントを論じて参ります。
掲載日:2012年09月13日
≪第3回≫耐震設計のポイントを考える(その3)
何度も同じ繰り返しになりますが、「すばらしいデザインは、すばらしい構造でなければ
すばらしくない」を肝に銘じて頂きまして、我が国では、「黄色本」に代表されるように
「技術基準」がありますので、これに沿って耐震設計のポイントを論じて参ります。
過去に東京大学の境有紀Drの論文の中に、「剛性を考慮した高層RC造建物の耐震設計法」
があります。耐震設計の目標は、地震時の部材の塑性率と建物の層間変形角によって表現
されますが、耐震性能について「大地震時」と「中地震時」で制御体系が異なります。
「大地震時」の耐震設計の目標は、コンクリート工学年次論文報告集第9巻第2号では
① 梁端の塑性率は4程度以下、1階柱脚の塑性率は2程度以下とする。
② 層間変形角は1%程度以下とする。
③ 対象建物の崩壊機構は原則として梁曲げ降伏先行型とする。
「大地震時」の耐震性能は「塑性率→保有水平耐力」であり、「層間変形角→剛性」である。
これらの指標として、「保有水平耐力」は「降伏時のベースシャー係数」であるが、建物の
「剛性」は「応答層間変形角」を制御する簡単なものである。
境有紀Drの論文では、この「応答層間変形角」を制御する指標を提案しています。
「靱性に依存するRC造建物の耐震設計法」も上記のコンクリート工学論文にあります。
建築物の弾塑性特性に関して、引き続き「耐震壁」を解説します。
掲載日:2012年10月24日
≪第4回≫耐震設計のポイントを考える(その4)
「耐震壁」を多角的に捉えると「壁の考え方」とか「成り立ち」に解説を触れざるを
得なくなります。そこで、テーマを「弾塑性特性」と「構造特性」の2つにします。
まず、「弾塑性特性」について「耐震壁のモデル化」には種類がある理解です。
現在論じられている「モデル化名」は5つである。
① モデルA 線材置換
② モデルB1 壁エレメント置換(側柱ピン) ←PC / 一貫ソフトの主流
③ モデルB2 壁エレメント置換(側柱剛接) ←PC / 一貫ソフトの一部で使用
④ モデルC ブレース置換 ←PC / 一貫ソフトの一部で使用(最近は採用しない)
⑤ モデル D 十字柱梁置換(壁内法部の軸剛性を4/3倍している)
立体架構(3次元)解析では、直交架構と柱部材が共有されるので「モデルB1」として
いるのが一般的である。このモデル化では、「工の字」のように部材を線材に組み立てて
おり壁柱と付帯柱は分離し、柱は階高さの負担分の一様分布で曲げ変形を生じ、中央の
壁柱は上下に剛な横方向の梁に接続させている。
柱と壁柱では変形の状態や性質も異なり、接合部では「変形の適合条件」を満たさない。
結果として、付帯柱の降伏と壁柱の曲げ降伏が別々に生じて、「壁のせん断破壊」に対して
危険な評価となるので注意が必要です。壁柱の上部や下部にヒンジ発生している場合は
その内容について適切な検討を要するところである。
しかし、この「柱」と分離した「壁」のみの曲げ耐力の評価は、正直言って大変難しく
実情が解明されていない。従って、壁柱の曲げ降伏によって「負担せん断力の頭打ち」を
避ける設定などがあるが、逆に壁柱のみ曲げ降伏も不自然であるし、壁のせん断破壊が
生じなくする危険な結果にもなる。「変形の適合条件」を満たさないので困るのです。
掲載日:2012年10月26日
≪第5回≫耐震設計のポイントを考える(その5)
「耐震壁の思想」として、過日興味深い新聞記事を拝見しました。
「信濃毎日新聞」2012年2月18日に掲載された「森羅万象の考現学」の中で
建築史家・建築家、藤森照信氏の連載記事です。
サブテーマは「耐震」「免震」「制震」とあり、地震に対抗-力を発揮とある。
大正12年(1923年)の関東大震災の復興に対して、内田祥三氏と内藤多仲氏の建物の
構造形式に「経済的優劣」を、「内田氏の柱・梁を太く」あるいは「内藤氏の柱と梁は
そのままで間の壁をところどころ厚く」で時の建築会社が試算して内藤氏の勝ちとある。
その「耐震壁理論」が今の法規の源流となっています。その後、「柔剛論争」も経て
1940年の「カリフォルニア州のエルセントロ」という町にある変電所の地下室で
記録された加速度波形のNS成分を参考にした地震応答解析技術により、我国でも
「霞ヶ関ビル」など「耐震建築物の高層化」が始まったのです。
最近では、制震構造が効果を発揮していますが、「長周期地震動」の対策も不可欠です。
「付帯ラーメン」内にある壁の剛性評価についても小野正行Drによるコンクリート
工学年次論文報告集(1995年)では、大きな開口を有する開口壁の弾塑性性状に関する
実験的研究などがあります。「開口周比が0.4以上」について「小野低減率γu=√(ΣAc/hL)」とした「圧力場」のストラット形成理論も学会低減率と対比させながら当該壁における
せん断耐力の安全性を評価しています。
実務者にとって、日本建築学会のRC構造計算規準・同解説は座右の友であり2010年の
最新版はもとより、付着等では1999年版も必要な専門文献なのです。
2010年の最新版では、「計算例」として「袖壁付きのスリット」を切らない事例もある。
この場合、袖壁先端の境界域に発生するヒンジ位置には「X形配筋」を採用しています。
しかし、この「柱」と「壁」の連続体の曲げ耐力の評価は、正直言って大変難しく実情が
解明されていない。従って、提案者の名古屋工業大学・市之瀬敏勝Drも「一例として」のコメントを述べられています。地震国である「我国の耐震思想の過敏な考え方」を示すものでしょう。
掲載日:2012年10月29日
≪第6回≫耐震設計のポイントを考える(その6)
「黄色本2007」の記述等を鑑みて最近の国土交通省の「耐震」の考え方に疑問や
指向を論評する方々が多くなっています。代表的な例が「保証設計」です。
余裕のある強度を持たせる為の規制である・・・これは理解出来ます。
地震動の不確定さ、復元力特性のばらつき、解析モデルの起因による現実との乖離、
静・動的解析も同じ、自然現象を全方位(360°)から捉えるなど想定外の言及である。
過日、「限界耐力計算」の解説においても工学的基盤からの表層地盤の増幅に関して
「平行成層地盤」にこだわる為に、その深さの5倍の範囲の調査も盛り込む内容から
「限界耐力計算」を使用しにくい障壁となってしまいました。
耐震計算偽装事件を受けた「検証作業」において国土交通省は「朝日新聞」で徹底的に
「ダブルスタンダード」と言われ困窮の矢面にたった結果論ではないでしょうか。
日本建築学会は、二歩も三歩も先を見据え、「限界状態設計指針」や「終局強度設計法」
など工学系の理論推進が益々顕著になってくると考えます。
いつまで「新耐震」と言わせているのか・・・時はすでに30年近く過ぎております。
「耐震診断」の必要性のある「不適格建築物」の現行法規への適合に対して国民の目
から見た「施策」を求められても「免震」「制震」とかがありますよ・・・では困る。
未曾有の東日本大震災の復興に対して、内田祥三氏と内藤多仲氏の構造形式論争では
ないが、行く末を確実に見通せる建築技術者としての「自己研鑽」を望む次第です。
掲載日:2012年10月31日