(H27年09月05日)
≪第1回≫耐震設計の今後(その1)
1981(昭和56)年の「新耐震基準」が始まって30年以上となり、日進月歩の工学の分野
において、自然の摂理と関連しながら幾多の地震被害を経験している我が国です。
耐震設計技術は、時系列に過去に幾度となく続く震災からの「耐震研究」に関連した構造
技術の変遷や動的な挙動検証などの変化や多様化の上に進歩しています。
過日、NHKのTVにて「我が国の30年後の人口推移」は減少傾向を辿り、現在の約1億2千万人
が約8千万人との予測データを示して「経済システム」の全体像を報じていました。
超巨大地震に対して、多様に複雑高度化した「社会資本の建築物」の震災被害防止は可能で
あるか、建築基準法の「国民の生命・財産」を守れるかも「耐震」という工学領域以外に
必要な社会秩序の再構築も必要なものとして対策になると考えます。
主要な三大都市圏(関東・中部・関西)に人口集中し、高い都市機能を持つ社会資本整備に
30年後の人口減少の流れは、今後の建築構造技術に耐震機能の関連性として「超巨大地震」
の影響が社会のインパクトとして耐震・制震・免震など考え方を大きく変化させ、かつ
東日本大震災級の規模の地震動が「三大都市圏」の直下型となった時、高度で複雑化した
都市機能の維持が問題視され教訓とならざるを得なくなるのです。
今の時点での超強震動の予測は、未解明の部分も多く「イタリア」のように「地震予知」
に対する司法措置は、研究者の意欲をそぐものにもなり関連する学会から様々な論評が
出て社会混乱を増幅させます。「自然相手」なのに・・・と言ってしまえばこれもまたです。
掲載日:2013年5月7日
≪第2回≫耐震設計の今後(その2)
いつの時代も「社会的な課題」を背負い、活路を見出して来た先人の英知に感謝し
時代に沿った認識から日進月歩の工学の研究分野の地道な努力が行われています。
少し専門的に思考を掘り下げて見ると、「耐震の歩んだ歴史」の認識から幾多の震災により
耐震の機能性や自然の摂理と関連して、建築構造工学の各専門領域の展望となります。
外乱である「地震・地震動」の解明は、既往の結果から推定、観測、活動などです。
その活動や想定は「観測された強震記録や特性」から推定して規模等の把握となります。
M9クラスの地震動の特徴は、強震動の周期帯から外れた10秒以上の「長周期」と
「長い継続時間」として発現が報告されています。地震の発生場所の違いも係わりをもち
「海溝沿い」の大きなすべりを伴えば10秒以上の「長周期帯」と固有周期の長い建物に
とって地震動レベルの因果も課題でもあり、強震動の予測の評価ともなります。
一方、短い周期帯レベルの場合は、宮城県沖の過去の地震レベルとも整合するようです。
我が国のような「細長く海溝沿いの島弧」のプレートテクニクスの理論から、比較的均一
な広範囲の観測網(K-NET)で観測されたものとして、宮城県沖のM9クラスの「強震動特性
の想定」は、この地域固有のものかどうかも注視して検討する必要性に関し災害を科学的
に解明しようとする研究者も存在します。
このような「外乱」を受ける建物を構造別に耐震性能と今後について述べて参ります。
掲載日:2013年5月16日
≪第3回≫耐震設計の今後(その3)
我が国に多くある「鉄筋コンクリート造」と「鉄骨造」について耐震性能はどうなっていて、今後どのようなトレンドを示すのか個人的な見解も含めて考察して見ます。
ご存知のように、2段階の法体系の「耐震設計」による昨今の地震被害から国土交通省の
考え方は、多くのRC造・S造において「安全性」は担保されたと見ていると思います。
ただ、唯一「倒壊」は免れても「継続的使用」に対する保証はないのです。
「塑性変形」は許容する・・・ここに、どの程度許容するか・・・尺度がないのです。
「余裕度」とか「安全率」であったり、終局の「割増し係数」です。
本来なら「性能維持」に対して柔軟な発想による「靱・剛・適応性」を選択肢として
対応出来る社会認識に翼賛する方向付けもあってもいいのではとも考えます。
1950(昭和25)年に制定された「基準法」と名のつく法律も上記から見れば時代追随に
疑問符を呈する方々もあります。東京大学の神田順Drも唱えられた時代がありました。
菅直人政権時代に一時取り上げる機運のあった「建築基本法」にもテーマは帰結します。
法体系は世界の国の数だけありますが、当時の菅政権は英国の視察にて認識していたと
思える新聞記事が脳裏をかすめます。検討に値したかは定かではありませんが。
東京大学地震研究所の壁谷澤寿海Drは、最近の建築雑誌に寄稿された中で興味ある論評を述べていますのでご紹介します。RC造建物の地震被害と耐震性能の現状と題しています。
掲載日:2013年5月26日
≪第4回≫耐震設計の今後(その4)
RC造建物の地震被害と耐震性能の現状と題した寄稿記事に興味あるものがあります。
壁谷澤寿海Drは、ご存知の方もあるように連層耐震壁のモデル化においても独自のもの
として「壁谷澤モデル」を出されています。
低層建物における認識は、法律の設計目標よりかなり高い評価になっており、耐震壁の
せん断終局強度は許容せん断耐力の2~3倍以上ある。また保有水平耐力が1次設計用
せん断力(co=0.2)より高くなるのは、材料強度、設計式、計算方法、配筋の慣行に明らかな
要因もあるとも述べてあり、実務者にとっては、少し安堵の気持ちを持てるとも考えます。
勤勉な日本人的な性格かも知れませんが、「耐震壁の思想」にも一定の尺度評価とも捉え
かつ実務計算に対して、耐震診断で用いられている終局強度の慣用評価式でも1.5~2倍
程度の余裕度があることも同じです。
また、最近の研究では、コンクリートが実際の設計基準強度を大きく上回るなどから梁の
Muに対してスラブの効果は、十分に小さい変形で梁側面から1.0mではなく全幅が有効に
なることも解明されています。
次回の(その5)では、壁谷澤寿海Drの「極耐震構造」の考え方をご紹介します。
これには、例えば「加速度の入力逸散」など難易度の高い専門用語も入っておりますので
その解説や、米国の諸大学の博士論文成果にも触れます。
掲載日:2013年6月5日
≪第5回≫耐震設計の今後(その5)
RC造建物の地震被害と耐震性能の現状から今後の耐震構造の方向性を示すものとして
壁谷澤寿海Drは、「極耐震構造」を紹介しています。もちろん、現行の法体系による目標
あるいは計算の枠を外れたもので、最大級の極大地震動対象です。
「入力逸散」は、基礎すべりから「フェイルセーフメカニズム」の実現であり、一種の
免震機構なのです。基礎部の摩擦係数μ=0.2~0.4、上部は「強度指向型」によるもので
摩擦係数μ=0.5~1.0程度で低層建築物は実現可能とも論じてあります。
米国6大学(Berkeley、Stanford、Los Angeles、Purdue、Ilinois、Notre Dam)の巡講の
経過報告などからの論文をご紹介します。
2自由度系応答から基礎すべりが発生する場合の建物の最大応答を簡便な形式表現から
「入力逸散効果の定量化」して、上部構造が極大地震動に対して弾性範囲に留まるための
極耐震の強度を定式化する方法を示して日米の学者同士が意見交換しています。
兵庫県三木市のEディフェンスでの「実大震動台実験」や「基礎すべり応答性状の一般化」
と「中国の四川大地震の学校建物被害調査」などから「復元力特性」、「固定とすべりの
応答スペクトル」、「被害率」であり、結果論としては以下である。
(1) 非線形応答の推定制度のあるハザードMapの形成のあり方
(2) 実際の規準のサーベイと建物強度剛性のばらつき評価
当然、米国の諸大学のDrもGISモニタリング、マイクロゾーニングなどを目的化した
高い密度観測網の情報共有を望むはずです。
掲載日:2013年6月16日
≪第6回≫耐震設計の今後(その6)
S造建物の地震被害と耐震性能の現状からは、京都大学の吹田啓一郎Drの論評がある。
「今こそ強靭な鉄骨構造を-来るべき巨大地震に強い日本をつくる」と題してあります。
被災の確率は低くとも、従来にない大きな変形の応答が可能性として考えれば、S造の
主架構のハイレベル域の変形能力の確保に設計・施工時に特段の配慮を求めています。
柱部材には「高強度鋼」で損傷を防ぎ、柱梁接合部には溶接接合部の近傍の大きな応力
作用を抑制して塑性化を防ぐ方法として変断面による拡大フランジやRBS工法が有効です。
吹田論文には、構造物応答評価の今後の方向性も論じてありますが、結果的には入力地震動は
前回での「基礎地盤」と「上部構造」の相互作用の重要性であったり、応答評価では
部材の塑性ヒンジ近傍の対策として精度よく行う為の「劣化域の限界変形」や「劣化勾配」
などの定量的評価が急務とも触れています。
私達、実務者として「設計の考え方」では法体系に従うのは言うまでもないが、被災した
場合の継続使用性、機能性の維持は構築安定の履歴特性から「レベル2」までである。
想定外の「劣化域」に入る地震動に対して、「レベル2」のクライテリアの延長での設計を
考えるのは難しいので、継続使用性、機能性の維持保証出来ない事を許容し、唯一倒壊を
免れる為の「真の安全限界」に対する評価に取り組む必要性を説いています。
塑性変形は許容するが、倒壊だけはさせない「クラステリア」を望むものと思います。
どのような構造形式であっても「基礎地盤」から「上部構造」に地震動が伝播する機構に
出来る限り「真の挙動把握」の重要性に気付いて頂きたいのです。
掲載日:2013年6月26日