(H29年06月15日)
地盤と基礎(その1)
毎日「実務」の中、時たま深く思考するテーマに「地盤と基礎」がある。当然、まず法律である。何が書いてあるか・・・敷地に最低の基準を定めて法律の目的である国民の生命、健康及び財産の保護を図り、公共の福祉の増進に資するとある。あとは法律に細分化された記述のとおりであるが、我が国の地盤を考えて見ると、「火山国」の列島であり火山灰の堆積により「平野」の形成が多く、そのほとんどは「沖積層」である。
この「沖積層」が厄介なものである。この層は、第四紀沖積世(約1万年前から現代までの時代)に堆積した地層であり、一般に「軟弱・未固結」の土層である。
もう少し詳細に言うと、「第四紀沖積世」の間に形成された地層で、我が国では約200万年
から1万年前までの「洪積世」の段丘や丘陵地を削って洪積世末の低い海面がある時期に
形作られた谷地を埋める形で分布して現在の河岸、海岸平野を堆積し尽したものでもある。
この多くは流動状の未凝結の固結物が堆積したもので「沖積層」という呼称なのです。
厄介なのは、我が国の沖積粘土である。ほとんどは「正規圧密粘土」である。
粘性土地盤の圧密状態は、俗に言う「圧密三態」に分けられ、「過圧密」、「正規圧密」、
「未圧密」である。これらの地盤は以下のとおりである。
・過圧密地盤 : 荷重が増加(上に建物が載る)しても圧密降伏応力(Pc)以下では圧密しない。
山を切り取った地盤や洪積地盤、地下水位が上昇して有効鉛直応力(σz)
が低下した地盤である。
・正規圧密地盤 : わずかな増加荷重でも圧密(沈下変形)する自然堆積の沖積地盤である。
・未圧密地盤 : 圧力増加がなくても圧密が進行中で、埋立て直後の地盤や地下水位低下の
見られる地盤である。
(H29年06月25日)
地盤と基礎(その2)
「地盤と基礎」に必修なのは地盤調査である。建築の分野で使用される地盤調査法として、「標準貫入試験(SPT試験)」と「スウェーデン式サウンディング試験(SS試験)」がある。
一般に杭基礎として支持層N値≧10を対象とする場合、SS試験では固さで対応出来ない。
SPT試験においては、砂質土の場合、N値からせん断強さや、砂の圧縮性などが判定でき、
地盤支持力の推定に用いられる。粘性土の場合も一定の目安がたてられるが、むしろ土質
試料の採取が目的となる。結果として、N値の分布からその地盤に対する基礎構造や工法
の判断資料が得られる。
SPT試験は、テルツァギー・ペッグの「土質力学」にあるstandard penetration testと
いう「標準貫入試験」の名称の略である。この試験には以下の長所と欠点がある。
(長所)
・多くの国で試験法が規準化され、結果の評価、利用、対比が容易である。
・原位置試験によって、同時に試料採取が行え、地質を目視で確認、室内試験も可能。
・試験結果の利用法が各種基準類で確立している。
・過去のデータ蓄積が多く、試験装置が簡便である。
(欠点)
・操作する人により結果が変化することがある。
・試験結果の確認方法がない。(信ぴょう性の問題)
・利用法が試験法のもつ限界を超えた所まで及んでいる。
これらについては、「N値およびC・φ」考え方と利用法が社団法人 土質工学会から出版
されているので参照されることを望みます。
SS試験は、地盤への鉛直荷重による貫入とせん断荷重による回転貫入を併用して、地盤
の静的貫入抵抗を測定し、深さ10m程度以浅の軟弱地盤の概略の硬い・軟かいの判断と
土質構成の把握を目的として行われ、主に小規模建築物用の地盤調査法である。
最近では戸建て住宅を対象とした簡易なSPT試験機も市販されている。
必要な調査深度と調査ポイントでは、上部構造から「せん断すべり」を考えると伝達され
る応力は基礎幅の2倍程度の深さまでが考えられる。調査ポイントは、敷地の地盤と地層の構成や不同沈下の可能性を調査することから必然的に決まってくる。
盛土地盤や不均質地盤か予想される場合、建物の四隅だけでなくさらにポイントを増やす
設計者の判断により地盤の構成を把握することになる。
(H29年07月05日)
地盤と基礎(その3)
「地盤と基礎」において、必ずと言ってよいほど「問題のある地盤」に遭遇する。
この場合、補強対策の必要な地形や地盤が概ね以下のものである。
・軟弱地盤 : 地層が泥土、有機腐植土等で構成し、沼や緩い砂の海岸を埋め立てた土地
・埋立地 : 沼、水田、湿地、谷、海岸等に土砂を埋めた土地
・盛土地盤
・山地・丘陵地の造成
・崖・急斜面
・谷底低地
これらの敷地に建築物を載荷する場合、「ボーリング図」を読み取る必要がある。
ボーリング図は、基礎の設計に目的をもっています。
すなわち、数多くの情報が盛り込まれており実務に活用されなければならない。
ボーリング図からわかることやわからないこととなると、土の性質などは、地域・場所
ごとに、その都度正確につかむ必要がある。
建築基礎におけるN値の考え方と利用において、SPT試験の位置ではその扱いは通常の
土質試験の一部であり、地層の硬軟を調べ土の性質を判断する重要な値であるが、定性的
に用いる概略調査値であり、定量的な把握は困難である。
(H29年07月15日)
活断層(その4)
「地盤と基礎」では、実務において「基礎工法」の選択に苦慮する。
一般に、「直接基礎」「杭基礎」に大別されるが、その選択の基準となるのです。
また、特殊地業や凍上対策、断熱・防湿工法なども考えられる。
日本建築学会の小規模建築物基礎設計の手引きでは
基礎地業の種別に「基礎、地業工法」と「地盤」を以下に示している。
基礎、地業工法 | 地 盤 | ||
直 接 基礎 | 布基礎(無筋) | 地耐力(長期) ≧50 kN/㎡ | |
布基礎 | 地耐力(長期) ≧30 kN/㎡ | ||
偏心布基礎 | 地耐力(長期) ≧30 kN/㎡ | ||
地下室壁基礎 | 地耐力(長期) ≧30 kN/㎡ | ||
べた基礎 | 地耐力(長期) ≧建築物自重 | ||
独立基礎 | 地耐力(長期) ≧30 kN/㎡ | ||
杭基礎 | 地耐力不足のとき | ||
特殊地業 | 玉石コンクリート地業 | 地耐力(長期) ≧10 kN/㎡を目標 | |
置換工法 | 地耐力(長期) 30~50 kN/㎡を目標 | ||
表層地盤改良工法 | 地耐力(長期) 50 kN/㎡を目標 | ||
いかだ地業 | べた基礎・杭基礎では設計困難なとき | ||
矢板壁 | 土の流動を防止 | ||
凍上対策 | 透水性不良の地盤 | ||
断熱・防湿工法 | ── |
(H29年07月25日)
地盤と基礎(その5)
「基礎工法」の選定において、上部建築物の軸方向力が長期、短期とも重要となる。
基礎付近の地盤の許容支持力が十分であれば直接基礎が選定される。
直接基礎は基礎スラブ形式により前回の解説によって分類される。上部構造の荷重を
独立して地盤に伝える「独立フーチング基礎」や布状に地盤に伝える「布基礎」とか、
全基礎スラブを介して地盤全体に伝える「べた基礎」などである。
基礎直下地盤の支持力が十分でない場合は、一般に上部構造の荷重に対して杭を介して
より深いところにある堅固な地盤に伝える。
杭基礎は、上部構造の荷重を地盤へ伝達方法により「支持杭」と「摩擦杭」に別れる。
本来、「摩擦杭」は液状化の恐れなどを考慮すると採用は慎重な判断となる。
それに対して「支持杭」は上部構造の荷重を全て堅固な地層へ貫入させ杭の先端抵抗
によって支持させる考え方である。杭長さに配慮も当然必要となってくる。
異種基礎を併用する「パイルド・ラフト基礎」にはより慎重な設計者判断を要する。
過去には「杭は軸方向力のみ負担」で設計していたが、昭和53年に発生した宮城県
沖地震の被害では、上部構造には重大な障害が生じなかった建築物において、杭頭部
の破壊、杭のひび割れ等被害があり、日本建築センターの「地震力に対する建築物の
基礎の設計指針」により建築物の上部構造と基礎構造が耐震について同じ水準の設計
が必要であり、この両者が一体となって有効に働いて地震に対する安全性の確保となる。
(H29年08月05日)
地盤と基礎(その6)
「基礎」において、日進月歩の技術開発が進む中、自然環境に配慮した上部構造と
下部構造を一体化した「杭柱一体構法」がある。
この構法は、特許権のこともありカタログには「留意事項」も記載されています。
また建設リサイクル法の対処には役立つものです。鉄筋コンクリート造の基礎および
地中梁等を設けず、地盤を掘り起こさずに建築物の構造躯体を構築できるものです。
鋼管杭と鉄骨柱を一体化させた構法で研究開発された新工法です。
地盤に対する液状化対策工法では
土の性状改良→密度増大(締固めなど)工法、固結工法、置換工法、地下水位低下工法
応力・変形・間隙水圧改良→間隙水圧消散工法、せん断変形抑制工法
など、公益社団法人 地盤工学会 の資料が参考になります。
新黄色本P-565の上から4行目にある樹脂類を用いた地業では
スーパージオ工法→地盤を軽くして建物の支持力を確保する置換工法
この工法は、軽量ブロックを建物の基礎の下に敷き詰め、上部構造の重量と同等の
地盤を抜き取ることで重荷負担を軽減し、不同沈下を防ぐものです。
他にも多種多様な基礎工法があり、コストパフォーマンスから判断材料になる。
一般的な「大臣認定埋込み杭工法」は、既製杭の挿入方法や支持力の発現方法において
各社杭メーカーの開発競争で「杭先端支持力係数α倍」の数値合戦の様相を呈しています。