(H30年10月15日)
横補剛材 (その1)
当方のHPにアクセスの多い横補剛材に関する「適合判定」からの学びの対応です。
健全な「塑性変形能力」の確保に重要な要素が、横座屈を生じさせないことである。
横座屈とは、はりが材軸を通る鉛直面と直角方向に座屈する現象をいう。
ならば、横補剛とは、この現象を生じないように、梁の水平方向の変形を拘束すること
となるのです。Lateral reinforcement (英字)と言われるものである。
鉄骨構造における梁の変形能力を確保する方法の一つとして「保有耐力横補剛」がある。
梁の変形能力を制約する要因として考えられるのは、「局部座屈」と「横座屈」です。
第1種保有耐力横補剛 → 梁の端部が塑性状態になる梁に対して横座屈をさせない補剛。
第2種保有耐力横補剛 → 終局時に梁の端部が塑性状態にならないが、隣接する材の端部が塑性状態になるまで横座屈をさせない補剛。
はりの横補剛による変形能力確保(=保有耐力横補剛)については、黄色本と呼ばれている
[技術基準解説書]の 621~624ページに詳しく解説されています。
この解説にあるように、横補剛間隔、補剛材の強度と剛性に関する諸条件を満たす梁は、
「保有耐力横補剛されている」となるのです。
この場合には、梁の曲げ耐力Muは全塑性モーメントMpとすることが出来る。
鉄骨造の耐震設計ルート 1-2 および耐震設計ルート 2 では無条件に保有耐力横補剛と
しなければならないのです。その理由は、「崩壊メカニズム」を確かめず、比較的簡便な
考え方によって、一定以上の強度、剛性及び靱性を確保することにより大地震時の地震動に対する安全性を確保しようとするものです。
一方、耐震設計ルート 3 では、保有耐力横補剛の条件が満足されない場合は、塑性変形
能力に乏しい構造ランク「D」として、Ds値を決定する必要があるのです。
また、その場合、横座屈発生時(FDランク梁材の第1ヒンジ発生時)を崩壊メカニズムと
して保有水平耐力を決定します。当然、横座屈後も耐力を保持し増分解析を続行して
保有水平耐力とすることは出来ません。
長期荷重時の補剛材(小梁)接合部においては、大梁芯との高力ボルト中心間距離e1に
対して 、せん断力Qによる曲げモーメントM = Q・e1が作用することになるが小梁や
大梁がともに「合成梁(RCスラブ付き)」であればこの曲げモーメントMの影響は無視
出来ますが、そうでない「折板」など合成梁でない場合は、曲げモーメントMを考慮して
小梁端部ボルト接合部を設計することとなるが、この場合、鉛直荷重は小さくせん断力Qは小さくなる。
次回から、実務に適合性判定からの指摘事項から学べるように要点ポイントを述べる。
(H30年10月25日)
横補剛材 (その2)
初回は、物事の成り立ち、用語の解説や基本的な「コンセンサス」を述べたので
この回より、実務対応型の内容とし、要点ポイントを記述して参ります。
是非、お役に立てれば「構造支援」の当方のボランティア信条として幸いです。
適合性判定の過去の審査していた時、多く質問が寄せられ、「基本的な力学知識」とか
「研究途上」にあるものまで千差万別であった記憶が蘇っています。
== 横補剛の計算根拠 ==
(1) 横補剛材の剛性と強度は下記のように検討
一次設計
補剛力 F ≧0.02 Mc / h
剛性 K ≧ 4.0 Mc / lb h
ただし、Mc = fb×Z (鋼構造設計規準)
二次設計 : 保有耐力横補剛
補剛力 F ≧0.02・C (C = σy ・A / 2)
剛性 K ≧ 5.0 σy ・A / 2 lb
(2) 横補剛材を小梁として用いる検討
ガセットプレートと高力ボルトによるH形断面梁の下フランジの回転を拘束は
下フランジからの回転モーメントM = F・e と小梁材の軸力N = F と高力ボルトの
せん断力QLによる組合せ応力により、高力ボルト及びガセットプレートの検討を行う。
この場合、保有水平耐力計算にてσyをJIS規格品により1.1倍している時は、
高力ボルト及びガセットプレートの検討も1.1倍した応力により検討する。
(3) 横補剛材の水平移動の拘束の検討
水平ブレースの架け方に留意して、ブレースと小梁を緊結することにより横補剛材
として有効によるよう架設し、水平移動を拘束する。
ブレース材は座屈しない断面材を用いるのが望ましい。
(H30年11月05日)
横補剛材 (その3)
前回に引き続き、実務対応型の内容とし、要点ポイントを記述して参ります。
是非、お役に立てれば「構造支援」の当方のボランティア信条として幸いです。
適合性判定の過去の審査していた時、多く質問が寄せられ、「基本的な力学知識」とか
「研究途上」にあるものまで千差万別であった記憶が蘇っています。
== 保有水平耐力計算の方針 ==
・横補剛を満足しないFD部材がある場合のDs値と保有水平耐力
以下の順にて検討する
- 横補剛を満足しないFD部材がある → Ds≧0.4
- 全塑性モーメントMpを低減した横座屈モーメントMcrで保有水平耐力を求める
- 横補剛を満足しないFD部材に第1ヒンジが発生した時点(横座屈時)を見極める
- 横座屈時を保水平耐力とする
- ※注意※ 横座屈後も耐力を保持して増分解析を続行し、保有水平耐力とする
ことは出来ない。
== 横補剛材の検討 ==
・高力ボルトの単位面積あたりの断面係数Zbの計算方法
以下の式にて検討する
Zb = Σ Li ^2 / L max
ここに、n : 高力ボルト本数
L max : 回転中心から最外縁高力ボルト中心までの距離
上記より、Zbは、同一断面からなる高力ボルト群の断面係数を高力ボルト1本の
断面積で除したものである。
※原稿の入力上、文字の制約にご了承下さい。
(H30年11月15日)
横補剛材 (その4)
前回に引き続き、実務対応型の内容とし、要点ポイントを記述して参ります。
是非、お役に立てれば「構造支援」の当方のボランティア信条として幸いです。
適合性判定の過去の審査していた時、多く質問が寄せられ、「基本的な力学知識」とか
「研究途上」にあるものまで千差万別であった記憶が蘇っています。
== 横補剛材の設計応力 ==
・メカニズム時応力の横補剛材位置の値とする方法
現状での知見より
横補剛材の位置に関わらず、必要補剛力Fを塑性ヒンジ部に準じて設定すれば安全側。
横補剛材の役割より、中央1本の場合、そこまで必要ない。
実証されていないが、必要補剛力Fは、C = σy・A / 2 で決まる値より極端に小さく
ならないように余裕をもって設定するのが望ましい。
横補剛材の必要本数が複数本で、C = σy・A / 2 によらず、両端塑性ヒンジ状態における
補剛材位置の応力から圧縮側合力を求める場合も同様に余裕をもって設定する。
== 横補剛材の終局耐力での検討 ==
・「終局耐力で検討」する場合の問題点
現状での知見より
- 高力ボルトのすべり
- 接合部係数αによる塑性ヒンジ部の耐力上昇
- 小梁ウェブやガセットプレートの母材破断及びはしあき部の破断
上記より、横補剛材の接合部の強度を終局耐力で検討することには、実験等で
未確認であり、短期許容応力度で検討するのが望ましい。
(H30年11月25日)
横補剛材 (その5)
前回に引き続き、実務対応型の内容とし、要点ポイントを記述して参ります。
是非、お役に立てれば「構造支援」の当方のボランティア信条として幸いです。
適合性判定の過去の審査していた時、多く質問が寄せられ、「基本的な力学知識」とか
「研究途上」にあるものまで千差万別であった記憶が蘇っています。
== 保有耐力横補剛の検討位置 ==
・端部と中央とで断面が異なる場合の検討
保有耐力横補剛は、梁端に発生した塑性ヒンジが断面の全塑性モーメントMpを
保った状態で回転し、梁端が十分に塑性変形するために必要な補剛である。
塑性ヒンジが発生した応力状態に対して、必要補剛本数や補剛材の必要強度・剛性を
確保する。
断面が異なる場合は、塑性ヒンジがどの位置に発生するかを確かめた上で、塑性ヒンジが発生した応力状態に対して、保有耐力横補剛を検討する。
== ガセットプレートの危険断面位置 ==
・危険断面位置 = 最も応力度が大きくなる位置の問題点
スラブなし、スラブ拘束あり、ガセット形状が小梁内によりパターンの変化となる
- スラブなし→ 高力ボルト群の中心位置
- スラブ拘束あり→ 高力ボルト群の最下縁
- ガセット形状が小梁内 → 高力ボルト群の最下縁と小梁下フランジの中間位置
(H30年12月05日)
横補剛材 (その6)
前回に引き続き、実務対応型の内容とし、要点ポイントを記述して参ります。
是非、お役に立てれば「構造支援」の当方のボランティア信条として幸いです。
適合性判定の過去の審査していた時、多く質問が寄せられ、「基本的な力学知識」とか
「研究途上」にあるものまで千差万別であった記憶が蘇っています。
このシリーズの最終回です。まとめ的要素としています。
== 横座屈許容応力度の低減と横補剛間隔の関係する基規準 ==
・「S造規準」(5.7)・(5.8)式、「解説」式ともに横座屈の影響を検討するもの
「S造規準」(5.7)・(5.8)式 → 中小地震時や暴風時などに対する一次設計を前提
「解説」式 → 大地震時に対する二次設計を前提、塑性化が進行しても横座屈なし
横座屈材の配置「解説」式を満足 → いずれの場合も検討
== 鉄骨はりの横補剛の検討 ==
・RCスラブ付き鉄骨はりにスチフナーのみを設けた場合の検討
「S造塑性指針」「各種合成構造設計指針・同解説」を準拠する
対策として、スチフナーを適切な間隔をもった2枚としスラブの有効幅を
大きくする、あるいは「各種合成構造設計指針・同解説」のP191~P198により
頭付きスタッドの間隔を広げて作用する引張力を小さくすることが考えられる。
まとめとして、 == 関係法令等 == を以下に示す
平成19年国交省告示第594号第1第一号、第二号
平成19年国交省告示第593号第一号ロ(6)
昭和55年建設省告示第1791号第2
平成19年国交省告示第594号第4
2015年技術基準 P 621~P 624