(H30年12月15日)
構造の盲点 (その1)
構造専門用語(その1)
最近問題になっている、「免震・制振用ダンパーの実験結果の偽装」に技術立国の我が
国に「疑心暗鬼」しています。「耐震偽装事件」をも彷彿させる出来事と捉えています。
たかが構造。されど構造。。。構造の盲点について触れて、今一度、目覚めとなって欲しい。
「盲点」とは、うっかりして気がつかない(欠)点と辞書にはありますので、「構造の盲点」
に限定して論じて参ります。少し、「難易度の高い」事象・事柄もあります。
各自の自助努力に期待しますので、学生時代の教科書も必要になるかも知れません。
「許容応力度計算、保有耐力計算」って何?
許容応力度計算では、中小の地震の発生を対象にして、建物荷重の20%程度に相当する
水平方向の地震力が床面に加速度となって加わっても、建物に「ひび割れが生じない」か
を確認する・・・すなわち、「弾性限界を超えない」にようするのです。
保有耐力計算では、大地震が発生したとき、建物荷重の40%程度に相当する水平方向の
地震力が床面に加速度となって加わっても、建物が耐えられる(崩壊しない)を確認する。
躯体が耐えた最大の力 = 「最大耐力(保有水平耐力)」である。
だから、大地震時に加わる力 = 必要保有水平耐力を上回るかを確かめる計算となるのです。
「限界耐力計算、時刻歴応答解析」って何?
限界耐力計算では、中小の地震の発生を対象にして、建物が「損傷限界」を超えない事、
大地震が発生したときには「安全限界」を超えない事を確かめるものです。
そこで、「損傷限界」= 許容応力度計算の「弾性限界」、「安全限界」= 保有水平耐力計算の
「躯体が耐えられる最大耐力(保有水平耐力)に達した限界」と理解する。
「損傷限界」でも「安全限界」でも建物の耐力は十分か、変形量はどうかを確認する。
限界耐力計算で変形を計算できるのは、地震時の損傷を「等価線形化法(縮約)」にて「1質点系にモデル化」するシュミレーションをするからです。
時刻歴応答解析は、振動実験に例示され、計算用構造モデルとコンピータにて、地震波(告示波)のデータを入力し、構造モデルが秒単位にて時刻で追跡するから、刻一刻と確かめる
計算なのです。RC造では「変形(層間変位)」、S造では「変形と塑性率μ」にて判断する。
(H30年12月25日)
構造の盲点 (その2)
構造専門用語(その2)
最近、故 武藤清博士の自筆信書を見せて頂く機会に恵まれました。感謝以外ありません。その中にあったのは「時刻とともに振動する耐震計算上の耐力を静的に解くところに問題がある」・・・とても印象的なものです。
前回の最後において、「時刻歴応答解析」に触れましたとおりです。刻一刻と確かめる
計算の中で何を確かめるのかですが、RC造では「変形(層間変位)」、S造では「変形と塑性率μ」の判断です。
「変形(層間変位)」を知ることって何?
床に加速度が加わり、ある階とその上階の床のずれが問題となるのです。躯体の変形は
1/100に納まるように構造設計することが多い。RC造なら1/50程度で「大破」です。
1/5か1/3程度で崩壊となります。帳壁等は1/250~1/125程度で納めるのは、躯体が健全
な範囲の中で、非構造部材の安全性を考慮しているのです。
実務においては、1/200や1/120という制限値を告示で示しているので理解出来ます。
「塑性率μ」って何?
構造物や部材が塑性域に入って変形するとき、全変形量と弾性限変形量との比率である。弾性域では「靱性率」となる。すなわち、弾性限変位で実際に生じている変位を除した値となります。どちらも、建物をどの程度損傷させるかの指標となります。
構造モデルが正確に作成され、地震波データの使用の的確さも時刻歴応答解析では大変重要となります。超高層建物の大臣認定審査に関わる諸先生方はこの点に注意しているのです。
(H31年1月05日)
構造の盲点 (その3)
構造専門用語(その3)
耐震偽装事件後、平成19年に限界耐力計算の方法として告示1230号を出しました。
その理由が、当時の朝日新聞による「ダブルスタンダード」の指摘にあったように記憶
しています。平成19年当時は、告示593号や594号の「塑性設計法」に関する事項で
そちらに関心があり、限界耐力計算の告示内容に気がつく方は少なかったようです。
工学的基盤の傾斜の確認 (黄色本P-479) に疑問符だったのです。
なぜ「限界耐力計算」なのか?
結論から言ってしまえば、この計算は「耐力だけでなく変形も確かめる」ことが特徴
てある。「損傷限界」とは、許容応力度計算の「弾性限界」を示している。
「安全限界」とは、保有水平耐力計算の「躯体の最大耐力の限界」なのです。
限界耐力計算で変形を計算できるのは、建物の構造を「1質点系」にモデル化 (縮約)
する「等価線形化法」に基づき、地震時の損傷をシュミレーションする方法をとるからなのです。だからこそ、表層地盤の増幅を厳密に考慮しなければならないのです。
「等価線形化法」って何?
結論から述べると、弾塑性応答を等価な弾性応答 (線形モデル) に置換する方法である。質点系 (串だんご) に地震波を作用させると、各時刻ごとに層せん断力Qと層間変位δに
よる応答結果として「履歴ループ」が示されます。
地震加速度は正負交番作用しますので、どこかで「除荷状態」となります。弾性範囲
なら第1象限と第3象限を行ったり来たりで「弾性応答」するが、塑性化後は「砂漠を
さまよう」如く原点に戻ろうとします。
この「道なき道を戻る挙動」を定めたものが「復元力特性」なのです。
これらの挙動は、「ノーマル (標準) 型」「剛性劣化型」「スリップ型」などの「紡錘形」
が見られます。この紡錘形の面積が「減衰性能」をあらわします。
(H31年1月15日)
構造の盲点 (その4)
構造専門用語(その4)
大きな地震動を受けた場合の建築物の挙動には、N.M.Newmark博士の地震時の
エネルギー吸収の図が必ず出てくる。その理由が、履歴減衰なのです。
構造特性係数Dsも論じて参ります。今一度、黄色本P-334~を参照下さい。
なぜ「履歴減衰」なのか?
結論から言ってしまえば、これは「エネルギー吸収による減衰メカニズム」です。
武藤清博士の話にもありましたが、Newmark博士の図はあくまで「静的な力」です。
実際の地震動は正負交番作用ですから「紡錘形」の動的挙動を示します。
地震のエネルギーを建物が受けると建物内部に「吸収」する衝撃緩衝力を帯びる。
この衝撃緩衝力はエネルギーを貯めるようなものであり、エネルギー出力応答を抑止する機能とし「減衰」となっているのです。
このようなメカニズムは、弾塑性応答の履歴ループによるので、「履歴減衰」と言う。
等価線形化法となるが、弾塑性応答を、等価な剛性を持ち、その履歴ループの面積と
等価な減衰性能を持った弾性応答に置換しているのです。
「復元力特性」を知る
前回の最後に「紡錘形」の履歴ループに触れました。この履歴ループをラグビーボールに例えて述べると、「どの程度横に太いか」をあらわす係数に「γ1」が用いられ、その値が
告示第1230号に示されています。黄色本P-469を参照して下さい。
0.25として「ノーマル(標準)トリリニア型」として3本線の変化の復元力特性となります。鉄骨造や鉄筋との付着の十分なRC造がγ1 = 0.25の対象です。
それに対して、γ1 = 0.3となるのは木造の耐力壁、鉄骨造の圧縮座屈による耐力低下する
筋かい材、付着が十分でないRC造が該当します。
ノーマル (標準) 型の場合、戻り剛性は初期剛性と同じとなる「復元力特性」ですが
剛性劣化型は戻り剛性が初期剛性より小さくなります。それだけ剛性が劣るのです。
この具体例 (曲げモーメント-回転角関係) として、JFE鋼構造設計便覧の冊子の中に
8-9. 露出柱脚の「NCベースEXⅡ」剛性低下の判る復元力特性グラフで確認出来ます。
(H31年1月25日)
構造の盲点 (その5)
構造専門用語(その5)
塑性設計の解析の中で重要な「荷重増分解析」をテーマに論じます。
難易度も高いですが、「基本的な理解」を中心に用語を解説します。
まずは、荷重増分解析の目的から理解しましょう。
「荷重増分解析の目的」とは?
結論から言ってしまえば、個々の部材が塑性化 (降伏する) することによって建物の各階の層せん断力と変位の関係がどのようになるのか追求することです。
線形変化が「曲線」なので「微分」が用いられます。高次の余は無視出来ます。
この曲線の変化を追求しますと、何が起きているか・・・「塑性ヒンジが一個ずつ形成」
されているのです。この一個ずつ形成されるプロセスを「ステップ」と表現します。
そして、これらの点を積分していけば「非線形」のグラフになります。
これが「荷重増分解析法」なのです。非線形ながら線形解析を何度も繰り返しています。
「バイリニアとトリリニア」を知る
塑性ヒンジの形成の繰返しなのですから、接点をピン接合と考えれば「剛性」の変化に対応しやすく理解できます。材端バネによる部材モデルなのです。
復元力特性において、RC造では「曲げひび割れ」が付き物です。コンクリート部材が
曲げを受けた時に生じます。鉄骨造では「降伏前」と「降伏後」の二本の線 (バイリニア)
であらわされますが、RC造では「降伏前」に必ず「曲げひび割れ」のポイントがあり
「原点」→「曲げひび割れ」→「降伏」→「降伏後」の三本の線 (トリリニア) です。
トリリニア型の復元力特性では、「ひび割れ後の剛性」も剛性低下率で評価されます。
また、「原点」と「降伏点」を結んだ直線の勾配を「見かけの剛性」といい、この値を
初期剛性で除したものを「降伏時剛性低下率σy」という。
(H31年2月05日)
構造の盲点 (その6)
構造専門用語(その6)
塑性設計の解析の中で重要な「増分解析」をテーマに論じます。
難易度も高いですが、「基本的な理解」を中心に用語を解説します。
引き続き、未崩壊部の解析について理解しましょう。
黄色本P-343の崩壊形やP-394~の余耐力法の話となります。
なぜ「全体崩壊形」が望ましいのか?
結論から言ってしまえば、人名の確保なのです。
すなわち、他の崩壊形の場合、上階の床の落下により「人命を奪う」のです。
あらためて、黄色本P-343の図6.2-7の上段の「全体崩壊形」に対して理解できる
はずです。
「余耐力法」を知る
Ai分布に基づく外力分布を用いた荷重増分解析によって建築物の崩壊形を求めようと
する場合、塑性化が進むにつれて、増分荷重に対する増分変形が大きくなっていき、過大
な変形に至っても崩壊形に至らないことがある。別途適切に階の崩壊形を求める方法と
して「余耐力法」がある。この方法は、荷重増分解析により求まる部材応力と部材の持つ
耐力をもとに崩壊形を求めるのです。「曲げ降伏」であることが原則です。
そのことにより「はりが曲げ破壊となる全体崩壊形」に導かれるのです。