(H31年4月15日)
標準貫入試験 (その1)
標準貫入試験(その1)
毎日「実務」の中、地球上のほんの表面に構築する建築物のため、基礎地業の判断材料に「標準貫入試験」が行われる。そこで、N値について考えます。
標準貫入試験の長所と短所は以下の通りである。
(長所)
・多くの国々で試験の方法が規準化されており、結果の評価、利用、対比が容易
・原位置試験により、同時に試料採取、地質の目視の確認、室内試験も可能
・試験結果の利用法が各種の基規準類にて確立
・過去のデータの蓄積が多い
・試験装置が簡便
(短所)
・操作する人により結果が変化
・試験結果の確認方法がない
・利用法が貫入試験の特性限界を超えた範囲まで及んでいる
テルツァギー・ペックの「SPT」に始まるこの試験方法は、我が国ではJISで定めている。
我が国での試験法は、サンプラーをボーリング用ロットの下端につけてボーリング孔底に
おろし、ロット上端にあるノッキング・ヘッドをハンマー(重量63.5kg)で、75cmの高さ
から自由落下させて打ち込み、サンプラーが30cm土中に貫入されるのに要する打撃の回数すなわち、打撃回数 = N値を測定するものである。
世界のN値は、我が国はもとより、アメリカ・アジアの諸国・オーストラリア・アフリカ・
南米・ヨーロッパの一部でも広く使用されている。大部分のヨーロッパ諸国では静的荷重の評価により、静的貫入試験の方が適当との考え方が多い。
次回は、建築基礎におけるN値の考え方と利用について論評する。
(H31年4月25日)
標準貫入試験 (その2)
標準貫入試験(その2)
「建築基礎」におけるN値の考え方と、その利用について述べる。
構造設計実務では、建築基準法・政令・省令(告示)などと日本建築学会の「建築基礎構造
設計指針」や日本建築センターの「地震力に対する建築物の基礎の設計指針」などによる。これらの文献等の中では、標準貫入試験は通常の土質試験の一部となっている。
地層の硬軟を調べ、土の性質を判断する重要な値ではあるが、定性的な概略調査用であり定量的な把握は「困難」であるが、実務では「N値万能」となっているのも事実てある。
公共建物の「構造設計指針」では、標準貫入試験をボーリングと併用して、「テストボーリング」と捉えている。
従って、地盤調査を行う前にまず、「資料収集」「現地調査」「資料整理」「地盤構成」を
想定し、効果的な調査計画の立案が必要である。
(液状化)の判定手順
・地盤内の各層に発生する等価な繰返しせん断応力比を算定
・標準貫入試験のハンマーによる打撃方法の違いからN値の修正
・補正N値としてNaを計算
・せん断ひずみ振幅5 %規準曲線によりNaに対応する飽和土層の液状化抵抗比を求める
・等価な繰返しせん断応力比と飽和土層の液状化抵抗比の比を安全率FL とする
・安全率FL の深さ方向分布から、FL が1.0以下の土層が液状化の可能性がある
(直接基礎)の設計とN値
・土質試験結果の利用 → 告示式による
・平板載荷試験結果の利用
・経験値の利用 → 砂質土、沖積粘土、洪積粘土、関東ローム「旧住宅公団等」採用値
(地盤の変形係数)E
・ボーリング孔内水平載荷試験(LLT)、一軸・三軸圧縮試験、平板載荷試験、せん断波
速度試験(PS検層)、標準貫入試験から求める。
(杭基礎)
・鉛直支持力算定 → 告示式による、大臣認定の場合は「認定条件」に従う
(基準の動向)
・限界形態設計法の採用 → 土質常数の合理性(工学的基盤の取扱い)
(R元年5月05日)
標準貫入試験 (その3)
標準貫入試験(その3)
標準貫入試験の結果、「N値万能」が実務では一人歩きしている。
N値のばらつきや物性との関連性の未検討や、機械的なデータ収集が多く見受けられる。
N値と力学定数の相関関係が種々求められ、N値さえ解れば基礎に関する設計は可能で
あるが、N値と内部摩擦角φとの関係は特に広く利用されているが、根拠が示されて
いないものばかりである。
N値のばらつきについて考えて見ると、調査は監督者のもとで行われた結果と、そうでない結果の比較で値が2~4倍となる報告もあり、N値が監督者の有無でこのような差が生じることは非常に大きな問題であり、監督者なしの調査はいかに不注意な操作で行われて
いるかの結果となっている。
また、落下法によるばらつきもあり、自動落下法では厳密であるが、コーンプーリー法
では監督者なしの結果と同等である。
N値の工学的意義について考えて見ると、土質工学会の参考文献より以下の事が言える。
・標準貫入試験は重錘落下により、ノッキングベッドを打撃し、ロッド中にスパイク型の
応力波を発生させ、それがサンプラーに伝達した時、サンプラーと地盤の相互作用に
より、サンプラーが地盤内に貫入されると同時に、反射波が再びロッドを上部に伝達
していくというメカニズムの試験である。
・上記の一連の現象は、ミリセンコド単位の非常に短時間で進行するから、砂地盤での
地下水位以下では非排水条件(ただし、地下水位以上では排水条件)、サンプラーが地盤を
直接せん断して貫入する。
・N値は動的貫入抵抗であるので、N値から静的強度を考える場合には、サンプラー貫入
時に発生する間隙水圧について考慮しなければならない。
・締まった砂地盤では貫入が進むにつれサンプラーが閉塞され、貫入メカニズムが
変わってくるので、N値の補正が必要である。
・従来N値と内部摩擦角φdとの対比関係が考慮されてきたが、上記のように砂質土の
N値は地下水 位以下では見かけの拘束圧下における非排水せん断強度と対応する。
・堆積年代が古く、かつ現在の有効土被り圧が極端に小さくない場合には、応力履歴など
の影響のため、現在の有効土被り圧よりも大きな見かけの拘束下にある場合が多い。
この時圧密降伏応力Pcにおける非排水せん断強度をとれば、N値と非排水せん断強度
は一義的な直線関係を示す。
・N値は砂質土においても非排水せん断強度と比例関係があることから、地震時の砂地盤
の液状化の判定には非常に有効な指標である。
・粘性土の設計に対しては非排水せん断強度を必要とするので、N値はよい指標となる。
・粘性土、砂質土とも非排水状態での弾性係数とはよい相関がある。
・N値や一軸圧縮強さqcを考える上で、貫入時に発生する間隙水圧はそれらを解釈する上
で非常に重要な要因であり、今後の研究が待たれる。
(R元年5月15日)
標準貫入試験 (その4)
標準貫入試験(その4)
N値が分かれば一応の設計が可能な我が国の多くの設計基規準(示方書)である。
そこで、「N値による地盤の評価」について論じる。
(土質とN値)
近畿大学の阪口 理氏によると、N値から許容地耐力qaが示されている。
礫 層 qa = N / 2 (tf / ㎡)
砂 層 qa = N (tf / ㎡)
粘土層 qa = 2.5 N (tf / ㎡)
(利用上の問題点)
N値0の地層 → 関東平野に多い沖積粘性土層の強さは、深さとともにほぼ直線的に増加
負の摩擦力(NF)の作用する場所では地層の強度は無視できないが
東京・大阪とも「工業用水法」に基づく指定区域で対象外である。
〇〇県環境部水質保全課「〇〇県地盤沈下調査報告書」によっては
お住まいの県でも建設地の地盤沈下がほぼ停止した地域となれば
負の摩擦力(NF)の検討は必要なくなります。
(過剰設計)
生じる最大の原因 → N値に対する理解不足
地下室があると排土重量 +浮力 = 建物重量となる
(地盤の工学的性質の評価)
N値等の原位置試験の結果をもとに評価 → その結果をもとに設計施工を実施
土性の把握 → 現場実施の試験結果だけではなく、周辺の敷地の同一地層の試験値や
地質学的なマクロな判断を加えて、総合的に行う。
全体的な傾向と異なる試験結果 → 一部に特殊な地層があるのか、試験値自体に問題が
あるのかの判断が必要
判断が基礎工法選定に大きく影響する時 → 躊躇なく、再度調査する。
(R元年5月25日)
標準貫入試験 (その5)
標準貫入試験(その5)
「基礎構造」に対して構造物の崩壊と変形・沈下の検討が、当然必要である。
特に「崩壊」は、土質工学では地盤や土の崩壊に関する問題を「安定問題」といい、土圧、支持力、斜面安定がこれに相当する。
主働土圧し受働土圧がなぜ異なるのか?
地盤はなぜ構造物を支えることができるのか?
地盤より単位体積重量が小さな物体が地中からなぜ浮き上がらないのか?
斜面はなぜ適度な勾配を保つのか?
これらは、すべて地盤や土が「せん断抵抗」しているからです。
このような現象は「水のような液体」ではせん断抵抗がないため起こり得ない。
土はせん断ひずみγとともにせん断抵抗τを発揮し、τfに至りその後はせん断抵抗は
減少し、せん断ひずみが十分に大きくなるとせん断抵抗は一定の値で変化しなくなる。
この最終局面のせん断抵抗を「残留強度τγ」という。
τf はその物体に応じた破壊規準式で与えられ、この式中にある定数が粘着力Cと
内部摩擦角φである。
安定解析では、せん断すべり面に沿った作用せん断力とせん断抵抗の釣合いを考える。
地盤内の各点でのせん断強度が知れればよいので、Cとφはせん断強度を求めるための
一つの手段として使用される。
土は基本的には、土粒子間の摩擦でせん断抵抗するので、土粒子間に作用している力で
ある有効応力で考える理解出来る。
(R元年6月05日)
標準貫入試験 (その6)
標準貫入試験(その6)
前回末尾で述べた「有効応力」がどのように変化するかを考えて、強度定数を強度や
安定問題に適用すべきである。個々の土の特性にといて要点のみ述べる。
土のCとφを考える際には、排水条件を十分検討する。
(粘性土のCとφ)
飽和した粘土であれば、非排水条件では、φu = 0となり、Cu = qu / 2
(中間土のCとφ)
中間土の一軸圧縮試験の結果を補正する方式の以下の提案式による
Cu =α (qu / 2) + 0.8 βσy
(砂のCとφ)
τf ~σ0 関係を記述したクローンの破壊規準(三軸圧縮試験ではモール・クローンの
破壊規準)で、C を粘着力、φを内部摩擦角、その両者を合わせて強度定数である。
τf = C +σ0 ・tanφ
(礫地盤のCとφ)
砂地盤の場合に習ってN値からCとφを推定しようとするが、礫障害のために
N値は50以上となり、強度の正しい評価が行えない。
補足として、現場の土質判定の結果を併用し、経験的にCとφを定めている。
※土質工学会「N値およびC・φ」を参照したが、「まさ土」や「しらす」についても
文献では触れています。