(H27年09月05日)
≪第1回≫地震動による耐震壁の挙動メカニズム(その1)
偶数月の「沖縄県」へ往来を始めて5年の歳月が流れ、地震地域係数Z=0.7の中での
「ピロティ建築物」の多さに閉口したからこそ、今一度「耐震壁」の重要性・機能を再考
しながら構築物の「地震動による耐震壁の挙動メカニズム」を考えて見ようと思います。
一般に耐震壁には「付帯ラーメン」を設置しますが、剛節架構と一体に面内剛性を高める
と同時に省力化として、「耐震壁をプレキャスト化」も見られます。
どのような形態であっても大きな剛性を有する鉛直構面材である以上、地震動による水平
力のほとんどが耐震要素として機能するはずです。平面・立面的につり合いよい配置は
当然必要な「構造計画要素」となります。
挙動メカニズムとして、この面材機能として「曲げ抵抗」「せん断抵抗」「基礎浮上り抵抗」
「破壊モード」などから推奨されるモデル化を考え直して頂きたいのです。
まず、「曲げ抵抗」に対して
鉄筋コンクリートの宿命である「ひび割れ」ですが、「ひび割れ前」は面材が付帯ラーメン
と一体になって「I形断面」として抵抗します。しかし、Mが増大すると「正加力」では
左側柱の「引張側柱」の「引張縁のコンクリート」に引張応力度が引張強度に達する(これ
を降伏と言う)と主応力線に直交な水平の「ひび割れ(曲げひび割れ)」を生じます。
この状態になると、「引張側のコンクリート負担応力度の変化」が現われ、負担応力度は
耐える相手として「引張側柱の主筋」と「側柱に沿う壁縦筋」に移行して参ります。
これら引張メカニズムと同時に、右側柱は「圧縮メカニズム」になる曲げ抵抗理論です。
この「曲げ抵抗理論」には相関性として「軸力」を論じる必要があります。
この軸力は、全て両側の側柱負担です。この側柱の圧縮軸力に対しては「安全側評価」と
なりますが、引張側柱の検討では「長期圧縮軸力の過大評価」となり危険側にもなります。
掲載日:2013年7月9日
≪第2回≫地震動による耐震壁の挙動メカニズム(その2)
前回、「曲げ抵抗」に対して考えましたので、引き続き「せん断抵抗理論」を考えます。
「せん断抵抗」に対して
鉄筋コンクリートの宿命である「ひび割れ」ですが、「ひび割れ前」は面材が繰返し荷重に
よって、あたかも「ブレース挙動」となります。すなわち、「引張力」と「圧縮力」を交番負担
する抵抗メカニズムなのです。しかし、Qが増大すると「正加力(→)」では壁面体には
「引張力」によって右肩下がり(\)の斜め方向の「ひび割れ(せん断割れ)」を生じます。
この斜め(\)方向の「ひび割れ(せん断割れ)」は、応力の超過次第では負担壁面体の
引張側脚部に引張側柱に発生した水平ひび割れから波及進展して生じます。
このような現象を「曲げせん断ひび割れ」と呼んでいます。
この斜め方向の「ひび割れ(せん断割れ)」が生じると、コンクリートが負担していた斜め
引張力は、負担壁面体の縦筋と横筋及び付帯ラーメンの縦筋と横筋が合成ベクトルの
分力負担となってつり合う。
上下連層耐震壁の場合、中間梁の主筋も横方向の分力負担となります。
従って耐震壁の水平力に対する抵抗メカニズムは、これら分力と負担壁面体に作用する
コンクリート斜め圧縮力がせん断力と釣り合い条件を保つとなります。
引き続き「基礎の浮上り抵抗」を考えます。
「基礎の浮上り抵抗」に対して 力の流れから、耐震壁の負担した曲げモーメントは当然、
基礎・地盤へ伝達となります。この時、基礎(支点)には大きな引張力と圧縮力が作用します。
この力の流れの伝達が出来ない場合、
耐震壁は全体転倒となり期待された「構造性能」は発揮出来ません。
メカニズムとして、「引張力」については
引張側柱が負担している長期軸方向力と杭基礎の場合、杭や地盤の摩擦抵抗となります。
また「圧縮力」については
直接基礎なら、支点を介して地盤の許容支持力で支えます。杭基礎の場合には、杭と地盤
の摩擦によって抵抗すると考えますが、一般には、安全側の措置として杭の摩擦抵抗には
期待しない設計方針とします。
従って、耐震壁直下の基礎(支点)で浮上りに抵抗出来ない場合は、周辺の比較的余裕のある
基礎(支点)への転嫁を「基礎梁」を介して力を伝達する考え方となります。
次の「破壊モード理論」については、少し難易度が高いですが共に学びましょう。
掲載日:2013年7月18日
≪第3回≫地震動による耐震壁の挙動メカニズム(その3)
引き続き「破壊モード理論」を考えます。
「破壊モード理論」に対して
加力の増大により、「ひび割れ」を伴う耐震壁につき、「ひび割れ後」の応力負担を考えて
見ますと、負担する曲げモーメントとせん断力によって最終的には「破壊」に至ります。
この耐震壁の「破壊モード」は、大きく以下の3つに分類されます。
「圧縮破壊モード」・「せん断破壊モード」・「浮上り破壊モード」である。
まず、「圧縮破壊モード」は
別名、「曲げ破壊」と言われます。何故なら、曲げモーメントの増大によって、引張側柱の
柱主筋や耐震壁の縦筋が順次「降伏(引張応力度に達する)」=「これを曲げ降伏と言う」し
やがて、圧縮側コンクリート断面が圧壊する「破壊モード理論」である。
この曲げ破壊は、シアー(せん断)スパン比が大きい耐震壁に生じやすく、このような耐震壁
は変形能も大きいと評価します。
次に、「せん断破壊モード」は
増大するせん断力によって壁面体が破壊し、コンクリートがはがれ落ちる(剥落) 破壊の
モードであり、「せん断破壊モード理論」である。
このパターンは2つある。壁面体の挿入鉄筋量が少ない場合、斜め方向に「破壊線」が
形作られる。逆に、壁面体の挿入鉄筋量が多い場合は水平方向に「破壊線」が形成される。
このような「脆性的破壊」は出来る限り避けるべきである。
特に、「曲げ降伏」前にこのせん断破壊が発生してしまう耐震壁は、「変形能」が小さい
ので、注意して設計対応すべきである。
最後に、「浮上り破壊モード」は
基礎の浮上りに関するもので、壁面体や付帯ラーメンの側柱は比較的健全であるのに
基礎の部分が浮上りによって先行破壊する場合である。
一般には、基礎部分においては、耐震壁の浮上りに対して「引張側」では引張側柱の負担
する長期軸方向力で抵抗し、「圧縮側」では基礎(支点)下部の地耐力で抵抗する考え方です。
これらの引張・圧縮の抵抗力で負担出来ない場合には「基礎梁」を介して、その他の周辺
に存在する基礎へ力の伝達機構となります。
従って、この「浮上り破壊モード」は、「基礎梁が破壊」することが決定の前提条件です。
基礎梁が「曲げ降伏」し、「曲げ破壊」に至る場合には比較的「変形能」は大きい。
と言うことは、「基礎梁」が「せん断破壊」する場合は「変形能」は小さく、「脆性的破壊」
の要因となるので要注意である。
掲載日:2013年7月29日
≪第4回≫耐震壁の応力と設計対応(その4)
前回まで、耐震壁の挙動メカニズム理論でした。引き続き、その設計対応です。
当然、MやQとか基礎浮上りに対応する考え方を述べて参ります。
難易度が高くなります。パスする方はご勝手に判断下さい。
まず、「曲げモーメント=M」の設計対応です。断面算定と復元力特性の設定手法です。
側柱の「断面算定」は
圧縮側において、M / l+N ≦ (1+n・pg)・b・D・fc
引張側において、M / l-N ≦ (1+n・pg)・b・D・fc
ここに、M:地震時曲げモーメント
l : 側柱スパン
N:長期の柱軸方向力(圧縮を正とする)
Pg:側柱1本の全鉄筋比
b、D:側柱断面の幅とせい
n:ヤング係数比(n=15とする)
次に、「復元力特性」の設定について、「モデル化」との兼ね合いもあるが、ここでは
「耐震壁を三本柱に置換(壁谷澤モデルと称する)」とする。すなわち、両側柱を面内方向
では「両端ピン」で軸力のみ抵抗要素の線材とし、壁板を中柱としてM・Q・Nに抵抗
する線材に置換である。
これは、耐震壁の面外方向の地震力に対して側柱単独でM・Q・Nに抵抗させる為です。
単独の耐震壁のMに対する挙動算定には、一般的な「I形断面の1本柱」に見立てて
平面保持仮定に基づき行います。この場合、断面の[I(断面二次M)~φ(曲率)]関係を求め
任意時の各断面のdφ(微小曲率)を∫(積分)する事で、曲げ変形(δb)を算定します。
[M~φ]関係は、「曲げひび割れ」「曲げ降伏」「曲げ終局」から「トリリニア型」となる。
まず、第1折れ点(曲げひび割れ点:Mc、φc)では
Mc = (bσt+σo)・Ze
φc = Mc / Ec・Ie
ここに、Mc: ひび割れ曲げモーメント
Φc: ひび割れ曲率 bσt:コンクリートの引張強度(=0.56√σB)(N/m㎡)
σo:長期軸方向応力度(耐震壁の負担する全軸力/全断面積、圧縮を正とする)
Ze:等価断面係数
σB:コンクリート圧縮強度
Ec:コンクリートのヤング係数
Ie:等価断面二次モーメント
掲載日:2013年8月9日
≪第5回≫耐震壁の応力と設計対応(その5)
[M~φ]関係の「トリリニア型」の考え方を続けます。
次に、第2折れ点(曲げ降伏点:My、φy)では
My = (cag・cσy・l)+(0.5・wag・wσy・l)+(0.5・N・l)
φy={ (My-fMy) (fφy-φc) / (fMy-Mc)}+fφy
ここに、My:降伏曲げモーメント
φy:降伏曲率
cag:引張側柱の全主筋断面積
cσy:引張側柱主筋の降伏強度
wag:壁板部分の全縦筋断面積
wσy:壁板縦筋の降伏強度
fMy:引張側柱主筋降伏時の曲げモーメント
fφy: 引張側柱主筋降伏時の曲率
最後に、終局点=第3折れ点(曲げ終局変形点:Mu、φu)では
Mu= My [= (cag・cσy・l)+(0.5・wag・wσy・l)+(0.5・N・l)]
Φu=φy[={ (My-fMy) (fφy-φc) / (fMy-Mc)}+fφy]
ここに、Mu:終局曲げモーメント
φu:終局曲率
終局点=第3折れ点のMuは第2折れ点時と同じとし、この時のφu(曲率)は、圧縮側柱の
中心のコンクリートの圧縮ひずみ度(ε)が0.3%に達した時点とする。
曲げ限界変形(曲げ終局時の変形)の評価手法はまだ確立されていません。
一般には耐震壁の場合、限界変形を「塑性率(μ)=2」としています。
この場合、圧縮側柱の軸力制限又はせん断補強筋を割り増す等注意を要する。
掲載日:2013年8月19日
≪第6回≫耐震壁の応力と設計対応(その6)
前回まで、Mに関する理論でした。引き続き、その設計対応です。
続いてQに対応する考え方を述べて参ります。
「せん断」に対して断面算定と復元力特性の設定手法を考えます。
せん断補強筋の算定の是非の判定として
等価開口周比 γo=√(ho・lo)/(h・l) ≦ 0.4 にて「一枚の壁」として扱えるか判定する。
壁のせん断応力度 τ=(1/γ)・(Q/t・l)≦fs(短期) なら斜めひび割れは生じないので
せん断補強筋の算定は不要である。
ただし、開口低減率γ:下記のγ1、γ2のうち、小さい方
γ1=1-(lo/l)、γ2=1-γo
付帯ラーメンの柱と梁の寸法は
柱、梁の断面積 s・t/2以上、柱、梁の最小径 √(s・t)/3以上かつ2t以上
壁板のせん断補強筋の算定(上記以外の場合)
縦筋・横筋の算定として「耐震壁の短期許容せん断力=Q2」は
Q2=γ・(Qw+ΣQc)
1本の柱の許容せん断力=Qcは
Qc=b・j・{1.5fs+0.5wft(pw-0.002)}
壁板の縦筋・横筋が等しい間隔で補強する場合のQwは
Qw=t・l’・ps・ft
耐震壁の負担する全せん断力をQとすると、壁板の平均せん断応力度τ’は
τ’=1/t・l’・{(Q/γ)-ΣQc}
必要な鉄筋量はps=τ’/ft、又はx=(at・ft)/τ’・t
開口補強筋に対する引張力は以下で示される
(1)開口ぐう角部の斜め引張力 Td={(ho+lo)/(2√2・l)}・Q
(2)開口鉛直縁に沿う最大引張力Tv={(ho)/2(l-lo)}・Q
(3)開口水平線に沿う最大引張力Th={(lo)/2(h-ho)}・(h/l)・Q
従って開口縁補強筋の必要断面積は
(1)開口ぐう角部の斜め筋 ad=Td・(Q/ft)
(2)開口左右縁の縦筋av=Tv・(Q/ft)
(3)開口上下縁の横筋ah=Th・(Q/ft)
掲載日:2013年8月29日
≪第7回≫耐震壁の応力と設計対応(その7)
前回まで、Qに関する理論でした。引き続き、その設計対応です。
続いて復元力特性設定に対応する考え方を述べて参ります。
「せん断」の復元力特性も「曲げ」と同様、「トリリニア型」です。
曲げ降伏前にせん断破壊する場合、せん断終局強度時のせん断変形=限界変形とし、その
変形に達すると同時に耐力を喪出するとした安全側に評価します。
まず、第1折れ点(せん断ひび割れ点:Qc、γc) →記号注釈は割愛します。
Qc=(sτcr・γ・tw・l)/κs
Sτcr=√(σt2+σt・σo)
σt=0.313・√σB
次に、終局点(せん断終局強度点:Qu、γu) →記号注釈は割愛します。
耐震壁のせん断終局強度の算定式は「学会指針式」と「修正荒川式」がある。
ここでは、連層耐震壁のせん断終局強度を比較的良く評価出来る「修正荒川式」とする。
有開口耐震壁の場合は、無開口耐震壁として求めたせん断終局強度×開口低減率γとする。
修正荒川式は
Qu=[{0.068pt0.23(σB+17.6)/√M/(Q・lw)+0.12}+0.85√(pw・σwy)+0.1σo]・be・j
せん断終局強度時のせん断変形(せん断ひずみ度)は
γu=4/1000 が平均的な評価を与える。
曲げ降伏後のせん断終局限界変形は、曲げ変形を含めた全体変形から「部材角」に応じた
学会指針式のコンクリート有効圧縮強度νoを低減させ、それを用いたせん断終局強度が
曲げ終局強度時せん断力になる時の部材角とする手法が一般的である。
また「既存建物の耐震診断基準」よりせん断終局強度と曲げ終局強度との比と塑性率μの
関係を以下に表す。
μ=10・(Qsu/Qmu-1.0)-k
ここに、k:耐震壁の場合は1~2
Qmu:曲げ終局強度
Qsu:せん断終局強度(以下の荒川min式で算定する)
Qsu=[{0.053pt0.23(σB+17.6)/√M/(Q・lw)+0.12}+0.85√(pw・σwy)+0.1σo]・be・j
掲載日:2013年9月9日
≪第8回≫耐震壁の応力と設計対応(その8)
前回まで、復元力特性設定の対応理論でした。
最後に、「基礎浮上り」に対応する考え方を述べて参ります。
ここでは、復元力特性の算定方法について述べる。
この設計の考え方は、曲げモーメントに釣り合う引張力に対しては、長期軸方向力で
基礎が浮上らない事を、圧縮力に対しては、圧縮力に長期軸方向力を加算した値が
地盤の短期許容支持力以内である事の両方を確認するものです。
これらが満足出来ない場合には、基礎梁の「非線形性」や「地盤の鉛直剛性」等を
評価する必要があり、非常に複雑となります。よって、「満足出来ない」場合には
「耐震壁の配置」の見直しが賢明となります。
耐震壁の復元力特性も複雑である。
まず、基礎の回転による復元力特性は、耐震壁脚部の基礎梁や地盤・杭の鉛直剛性(バネ)
などが関係し簡単に算定出来ません。
基礎の回転の影響を考慮する場合、基礎回転評価用フレームモデルとして「格子状態」を
基礎梁モデルと共に地盤・杭の鉛直方向バネを直交方向にも組みフレーム解析を行うなど
難易度は大変高くなります。
掲載日:2013年9月19日