(H27年09月05日)
建築物荷重指針・同解説 (2015)
日本建築学会の改定講習会が、2015年2月24日 東京で開催された。改定の主旨を慶応義塾大学の小檜山雅之Drが講演され、「荷重指針の意義」や「改 定の主なポイント(全体)」として述べられ、その中で特筆される項目は3編に分冊化される中にある「荷重指針を活かす設計資料集1、2」(1~2年後)の 内容である。
関連資料として、当日公表された「荷重指針を活かす設計資料集1」(2016年出版予定)に大いに関心を持っている。何故なら、「震源近傍で想定すべき地震動」が題目なのです。
指針の7章 地震荷重 の執筆担当は、学会の荷重運営委員会の耐震設計における地震荷重検討小委員会です。主査は、清水建設の石井透Drであり幹事に東京大学の糸井達哉Drや京都大学の松島信一Drほか委員12名で構成されています。
工学院大学の久田嘉章Drは、南カリフォルニア大学地球学科にも留学され「震源近傍の強震動」の研究に熱心な方です。当方も久田論文は相当読み漁ってお り、「凌駕(りょうが)された知見の持ち主」と感じています。学会の活動も含めて、「ライフワーク」としての取り組みとして地盤震動シンポジウムにご活躍 なのです。
関連資料で公表されている内容を以下に箇条書きします。
「震源近傍で想定すべき地震動」
(1) 震源断層の近くでは、破壊指向性パルスによる大振幅の地震動が発生する場合がある。
(2) 神戸市およびその周辺のような震源断層近くに深い盆地構造が存在する場合、1995年兵庫県南部地震の時のように破壊指向性パルスがエッジ効果によりさらに増幅される可能性が高く、設計上考慮すべきである。
(3) エッジ効果の特性の解明には詳細で専門的な検討が必要
(4) このため、内陸の活断層によって形成された盆地内の活断層からおおよそ2km以内では兵庫県南部地震の地震動と震災の帯での被害との関係から、一般建築物の被害に直結する周期0.5~2秒の入力地震動を1.5倍程度にするような考慮が必要だと判断される。
以上が、当日公表されたものです。次回より(1)~(4)に照準を当て論評いたします。
震源近傍で想定すべき地震動(その1)
前回箇条書きした関連資料で公表されている内容についての論評です。
(1) 震源断層の近くでは、破壊指向性パルスによる大振幅の地震動が発生する場合がある。
震源断層の近傍に関して、日本では「西宮市」と「横須賀市」に地方条例がある。米国、カリフォルニア州には州法がある。その内容は断層ラインから30m帯と800m帯をゾーン指定し、危険区域・周知区域とし地上構造物に加速度が増幅する事に法律喚起です。
工学院大学の久田嘉章Drは、1993年から2年間米国・ロスアンゼルスの南カリフォルニア大学において、研究テーマの「堆積盆地の長周期(パルス)地震動」に関して故・安芸敬一Drにお世話になられていた。
久田論文では、指向性パルス波などについて「長周期パルス」と呼ばれ、新潟県中越地震の「川口地区」の川口波、台湾・「集々地区」の石岡波として登場します。
日本で「指向性パルス」を説明されたのは、1994年のロサンゼルスのノースリッジ地震や1995年の兵庫県南部地震に関連づけた日本建築学会・地震動シンポジウムが初ケースだと久田Drも寄稿があります。
指向性パルスの存在は、活断層近傍の砂質地盤上で多くの強震記録がカリフォルニアでは得られているが、日本では、1995年兵庫県南部地震を契機に大きな注目を集めたのです。
破壊は、波により異なる。一般に指向性パルスは震源の断層面を伝播する「すべり破壊」が観測点に向かって近づく場合、「断層面に直交する成分」に現れる。 それ以外の場合は標準波(ランダム波)が現れやすい。強震動の特徴は、この2波以外に「フリングステップ」や「堆積層表面波」があります。
「フリングステップ」は、活断層の規模が大きくなると地表に断層が出現し近傍では断層すべりによりすべり方向に長周期成分が卓越する「ステップ関数状の変 位波形」が生じる。1999年台湾・集々地区の石岡波が代表例である。破壊指向性パルス波の代表例は、JMA神戸波(1995年兵庫県南部地震の震源近傍 地震動)であり、地震動の特徴は、断層面(高角逆断層で傾斜角が大)に直交する方向に現れるやや短周期以上で卓越するパルス波である。ランダム波・パルス 波はともに主要な地震動成分は「実体波」であり幾何減衰は(1/γ) である。
震源近傍で想定すべき地震動(その2)
引き続き箇条書きした関連資料で公表されている内容についての論評です。
(2) 神戸市およびその周辺のような震源断層近くに深い盆地構造が存在する場合、1995年兵庫県南部地震の時のように破壊指向性パルスがエッジ効果によりさらに増幅される可能性が高く、設計上考慮すべきである。
工学院大学の久田嘉章Drの米国・ロスアンゼルスの南カリフォルニア大学において、研究テーマの「堆積盆地の長周期(パルス)地震動」に関しての震源特性に類似している。「堆積層表面波」は、主要な地震動成分は「表面波」で、幾何減衰は(1/√γ) である。
神戸市は北側には六甲山系があり、南側が瀬戸内海に向けて「更新統・粘土と砂礫の互層である大阪層群・新第三系」が花崗岩を挟んで断層でS-N方位で接し ており、街の四周を山系に取り囲まれた典型的な「京都盆地」とは異なる。また、「神戸の地質断面模式図」から北から六甲山地、丘陵、扇状地、沿岸低地、埋 立地に大別され、阪神電鉄は沿岸低地、JRは扇状地、阪急電鉄は段丘・丘陵に敷設されている。
1995年の兵庫県南部地震の神戸市内の地震被害の特徴として、震源断層と震災の帯、及び被災した2,790棟の木造家屋から求められた主要な倒壊方向を 建築学会の報告集等から見ると指向性パルスにより、断層の直交方向になるほぼ北西-南東の方向に強い指向性を持っていた事がわかる。当然、表層地盤による 揺れの増幅となって現れる。このように、兵庫県南部地震による被害の大きな特徴として、地盤特性の違いの影響を強く受けていることが理解できる。
震源近傍で想定すべき地震動(その3)
引き続き箇条書きした関連資料で公表されている内容についての論評です。
(3) エッジ効果の特性の解明には詳細で専門的な検討が必要
震災の帯とエッジ効果については、神戸市は不整形地盤構造の典型であり兵庫県南部地震の震災の帯形成からも深部地盤とエッジ効果(盆地端部=境界領域の生成表面波と実体波の干渉)が活断層から離れた位置での帯状の震度7地域で見られる。
関連資料の公表の中では、地震動作成手法の適用例も示された。
現在では、地震調査研究推進本部(2008)により最も重要な震源近傍の強震動特性として指向性パルス波を組み込んだ経験的な強震動予測モデル(特性化震 源モデル)が実用化されている。その一例として、福岡県の博多湾-福岡市-太宰府市を通る「警固断層(南東部)」の強震動評価を震源位置及び計算点から示 し、「福岡市計算点」と「うきは市計算点」における工学的基盤の合成波形や減衰5%擬似速度応答スペクトルまで示されていた。
擬似速度応答スペクトル(工学的基盤)で見る限り、盆地効果により「福岡市」の方が「うきは市」より大きな最大応答速度の数値が見られた。工学的基盤の形成状況により深部および表層地質特性や地震も変化する。堆積盆地における地震動被害予測の困難さは科学者の悩みである。
独立行政法人土木研究所の久保田隆二Drによると、盆地深部については盆地全体の形状は重力データから決め、入力するS波(実体波)速度情報はやや長周期 の微動探査等の結果でも十分対応できる。盆地中心部・浅部についても微動探査の結果でも十分とある。表層部は比較的ボーリングデータも豊富であるが、非線 形効果を考慮する震度等については、より詳細な検討と解明が待たれる。盆地端部(エッジ部=境界領域)の形状は表層部の増幅が大きく上記の情報では不十分 であり、反射法地震探査等による調査精度が要求されてくる。
震源近傍で想定すべき地震動(その4)
引き続き箇条書きした関連資料で公表されている内容についての論評です。
(4) エッジ効果の特性の解明には詳細で専門的な検討が必要なため、内陸の活断層によって形成された盆地内の活断層からおおよそ2km以内では、兵庫県南部地震 の地震動と震災の帯での被害との関係から、一般建築物の被害に直結する周期0.5~2秒の入力地震動を1.5倍程度にするような考慮が必要だと判断される
活断層近傍については、西宮市や横須賀市は地方条例によって建築行為の自粛を求めていますが、そのゾーン設定には形成合意の難しさに直面します。震災の帯 とエッジ効果や不整形地盤構造など日本列島の活断層マップを見れば理解できるはずですが、エッジ効果(盆地端部=境界領域の生成表面波と実体波の干渉)が 活断層からどの程度離れた位置までの帯状のとらえ方が議論対象となる。
逆断層による指向性パルスの成因では、工学院大学の久田Drによると断層傾斜角が小さい場合には「パルスは出難い」であり、傾斜角が大きくなると右側(震央側)が断層に沿って出易い。
米国・カリフォルニア州の州法でのゾーン幅(30mと800m)も参考に、我が国特有の地形も考慮に入れた取り組みがなされて、関連資料の2kmとの言及や1.5倍の入力地震動にも適切な工学的判断基準が示され、「終局強度設計」への移行となる足掛かりと考えます。
強震動予測と地震動(首都圏・福岡)
首都直下型地震・福岡県西方沖地震についての論評です。
元日本住宅公団の海野哲夫先生の単行本に興味ある記述があった。日本で一番安全な場所はどこか・・・福岡市と北海道の大雪山のふもと(上川市付近)との記 述がありました。地震保険の掛け金も最も安く、地域地震係数も共にZ =0.8です。ところが、ご存じのように2005年3月20日午前10時53分福岡県西方沖でM7.0の地震が発生し、福岡・佐賀で震度6弱を記録しまし た。警固断層が北西-南東方向の左横ずれ断層活動をしたのです。「福岡市」は日本で一番安全ではないと証明したと同じです。日本建築学会の「荷重指針を活 かす設計資料1」の震源近傍で想定すべき地震動についても「福岡市」と「うきは市」を計算点に入れて、工学的基盤の減衰5%における擬似速度応答スペクト ルまで公表しています。
九州大学名誉教授 岩松 暉Drによると、この福岡県西方沖地震でも兵庫県南部地震の震災の帯で注目されたエッジ効果(盆地端部効果)と同様の現象が現れたそうです。警固断層の位 置は諸説があるが、今回の被害地域と無被害地域との境界は、従来の位置よりもやや西側に寄っている。被害有無から見ると境界線は「雁行配列」であり、断層 も「雁行配列」と考えられる。警固断層は活断層であることと西側では基底面が極めて浅いことから断層そのものの位置を反映している。
首都直下型地震においては工学院大学の久田Drによると、首都直下地震では内閣府モデルとWaldモデルがありマグニチュードはともに7.3、最大速度は waldモデルで38(kine)・内閣府モデルで44(kine)である。最大加速度は、waldモデルで410(gal)・内閣府モデルの場合 810(gal)である。東京湾北部の傾斜角の浅い断層では、特異な例を除きあまり指向性パルスは観測されない。科学データ通り基盤挙動となるか不明なの で安心は出来ない。
このように、指向性パルスやランダム波、フリング・ステップ、堆積層表面波を検証する上で、地震動の特徴や主要な地震動成分、発生条件、被害の状況などから対策例が考えられるので考察の結果として記述する。
標準波(ランダム波) → 耐震・免震
指向性パルス波 → 耐震・免震
フリング・ステップ → 地盤変形対策(べた基礎など)、免震は要注意!!
堆積層表面波 → 制震(減衰付与:ダンパー)など