(H27年09月05日)
構造物の自立(その1)
若年期の「米国研修中」に、シカゴの書店に入り浸りした記憶が蘇ります。30才台の前半に手にした一冊の本「WHY BULDING STANDUP」が ある。コロンビア大学の「マリオサルバードリー博士」の技術系論文集です。当然、その中身はすべて「英文」・・・帰国して、翻訳しようか、「翻訳本」を買 うかで迷い結論は「翻訳本」のお世話になりました。この博士こそ、私の「道祖神」です。
その中に「破壊」の項目もあり色々学んだ記憶もあります。現在、建築基準法の構造計算体系が「弾性」と「塑性」や「弾塑性論」となっており変形の把握を要 求しています。構造物の自立を考える時、力と変形の相関関係から「構造力学」の中では「破壊」に正しい理解をしていないと意味不明・論旨の捉えるエッセン ス(真髄)を失います。
「破壊」とは、材料や構造物が破断したり壊れたりして外力に抵抗出来なった状態を言いますが、「破断」とは、部材が外力(引張力)を受けて切断される事となります。
用語として
「破壊エネルギー」「破壊円」「破壊応力」「破壊荷重」「破壊強度」「破壊形式」
「破壊係数」に「破壊試験」「破壊強さ」「破壊点」「破壊ひずみ」など色々あります。
この中で、「破壊荷重」とは、材料が破壊強さに達した時の荷重であり、別な構築物からの論点からは、部材が終局強度に達した時の荷重であったり、骨組が崩壊メカニズムに達した時の荷重なのです。また、重要な用語の理解として「破壊形式」があります。
「破壊形式」とは、構造物や部材の破壊の様相によって分類され、「曲げ破壊形」「せん断破壊形」など破壊時の支配する応力で分けたり、「延性破壊」「脆性破壊」など材料の性質による分け方もあります。
改めて、「2007年版 建築物の構造関係技術基準解説書(黄色本)」のP-362を見て頂きたい。告示昭55建告第1792号第4の一の表にある「破壊の形式」であり、これこそ がRC造における「脆性破壊」を示すもので、塑性変形能力を阻害するので避けなければなりません。
「せん断破壊」「付着割裂破壊」「圧縮破壊」「その他の構造耐力上支障のある急激な耐力の低下のおそれのある破壊」の4つである。では、「延性破壊」とは 何かといえば、材料が塑性域(弾性域ではない事に注意)において破断するまでに十分引き伸ばされる事の出来る性質が「延性」であり、その状態時に破壊する 破壊の形式をいいます。
構造物の自立(その2)
構造物が自立している要件は、健全な応力伝達と破壊につながらない塑性変形能力の維持に尽きる。ならば、「破壊形式」から、構造物や部材の破壊の様相に よって分類される「曲げ破壊形」「せん断破壊形」など破壊時の支配する応力で少し掘り下げてみます。材料形状として「棒状のもの」を考えると、圧縮力を受 けると、荷重の作用方向と直交方向に「膨らむように変形」します。これが「座屈」です。鋼材の場合、「座屈」との戦いである話でもあるように「座屈を阻止 出来れば」圧縮と引張の強度は等しくなります。圧縮で押し潰される破壊を「圧縮破壊=圧壊」といいます。
一般論として、損傷の様式から工学で用いられる用語分類では
(1)延性破壊
(2)塑性崩壊
(3)座屈
(4)疲労破壊
(5)その他急激な耐力の低下のおそれのある破壊
順に、そのメカニズム等を説明します。
「延性破壊」は、材料が塑性域において、破断するまでに十分引き伸ばす性質の状態で破壊する破壊形式であり、一次応力を制限することで対処出来ます。
「塑性崩壊」は、構造物に水平な荷重を漸増させると、曲げ荷重を少し増やしただけで曲げ角度(部材回転角)が著しく大きく増える現象であり、延性破壊と同様に一次応力を制限することで対処出来ます。
「座屈」は、構造部材が外力を受けた時、その外力が単調増加していく過程において、ある時点で急に今迄の変形様式を変える現象であり、圧縮力を受ける曲げ座屈・曲げを受けるせい(部材高さ)の高い梁の横座屈などが該当します。
「疲労破壊」は、交番的な荷重による繰り返し応力を受ける材料が、静的荷重試験による強さより低い応力で亀裂・破断などの破壊を生じる現象であり、シャル ピー衝撃による材料の切書き欠き脆性論にも通ずる。一次応力や二次応力さらにピーク応力(付加応力)を制限することで対処出来ます。
「その他急激な耐力の低下のおそれのある破壊」は、様々な進行要因によって論ぜられる。一般的には、進行性変形・脆性破壊・応力腐食・割れなどを指すものと考えられます。
健全な「塑性変形能力」を要求する理由がここにあるのです。
構造物の自立(その3)
構造物が自立している = 破壊しない。当然の理論である。
過去、足掛け6年「沖縄県」でのセミナーでも触れましたが、「ガジュマル」の木が猛烈な台風の破壊エネルギーに耐えるのは何故か・・・耐えなかった樹木も あります。よく観察すると、「ガジュマル」は「絞め殺しの木」と言えるぐらい「幹が複雑に絡む」ことにより外圧に対して、「釣合条件」を保とうとし、地中 では反力を利用し、一生懸命に応力の再配分を繰り返していると理解すれば妙に納得出来るはずです。
唯一、那覇新都心に「ツインタワー」の超高層ビルが完成して「沖縄県」も今後の課題として「カルマン渦」の対処が本土以上にクローズアップされるはずで す。この現象では、「カルマン渦列」による「街路灯」の被害を危惧しています。流体の後流中に発生する渦列のうち、左右交互に規則的に発生するものです が、自然現象だけに「風洞実験」通り励振動の障害予測は難しく、滑らかな表面をもつ円筒形などが対象となるからです。
外力として、「風圧力」を論じると、カナダの西オンタリオ大学のダベンポート博士の「ガスト影響係数Gf」や日本風工学会誌に発表の岡田恒Drの外装材の風荷重評価についてのお話として過去の論評にも掲載済みです。
我が国は、環太平洋に沿った「地震の巣」の上に1億2千万人が暮らしています。この地震との闘い(闘値)に関して、内藤多仲Drは早くから「柔剛論」での 見解を示され関東大震災の後に「復興院」に協力されて、「耐震」という考え方を現在の「建築基準法」の源流を形づくっています。1935年、棚橋諒Drは 「柔剛論争」の優劣ではなくて構造物の終局(破壊)までに蓄えるポテンシャルエネルギー量が耐震性を決定付けると示され論争の収束となりました。まさに、 先人の英知に感謝以外ありません。
世の中は、「構造物の自立」に対して、「耐震」「制震」「免震」と突き進んでいます。
次回から、「破壊」をこの3つの局面から思考して参ります。
構造物の自立(その4)
構造物が自立している論理の中で、前回ふれましたが世の中は、「構造物の自立」に対して、「耐震」「制震」「免震」と突き進んでいます。今回から、「破壊」をこの3つの局面から思考して参ります。
まず、「耐震」に関して重要な「境界梁」です。
「境界効果」は、耐震壁の計算にあたり、剛な壁体に連続する剛節架構(ラーメン)内の梁や直交する剛節架構(ラーメン)の梁が「壁の変形」に与える影響効果です。
たまたま、平成25年度の「構造設計1級建築士の法適合確認の考査設問」にもありました「境界梁」のせん断破壊から当方の解答例より解説を始めます。
連層耐震壁をつなぐ「境界梁のせん断破壊」に対して、被害原因を、地震時の架構変形性状と部材構造特性の面から述べる設問でしたのでそれを解説します。
被害原因を、地震時の架構変形性状と部材構造特性の面から
・RC境界梁のせん断破壊が被害の原因であるが、耐震壁と剛節架構が混在する場合には、耐震壁に 取り付くつなぎ梁(境界梁)、直交梁は耐震壁の立体的挙 動、すなわち、引張り側の柱は伸び上がりそれに取り付く梁が強制変形を受け、耐震壁の回転を抑える効果を評価できるモデル化とする必要がある。
また、高度な工学的判断から別解答として
・並立するRC造耐震壁とそれを連結する境界梁で構成される構造形式では、RC境界梁のせん断破壊が顕著である。1964年アラスカ地震被害から、RC境 界梁の弾塑性挙動が注目され1971年にニュージーランド・カンタペリー大学のポーレー(Tomas Paulay)教授が「X形配筋」を用いることによってその変形性状が改善されることを初めて提案した。「X形配筋」は、引張主筋量が多くなっても付着割 裂が生じにくく、短スパン梁(境界梁)でもX形配筋を適用すれば、曲げ破壊させることができ、その効果を十分に発揮する。
特に、曲げ戻しとなる「境界梁」の挙動研究では、ニュージーランドのカンタペリー大学のポーレー(Tomas Paulay)教授が「X形配筋」を用いる変形性状改善の提案をされました。我が国では、日本建築学会のRC構造計算規準・同解説(2010年版)では、 「X形配筋」によるせん断検討例を掲載しています。
構造物の自立(その5)
構造物が自立している論理の中で、前回ふれましたが世の中は、「構造物の自立」に対して、「耐震」「制震」「免震」と突き進んでいます。
今回から、「破壊」をこの3つの局面から思考して参ります。
次に、「制震」に関して重要な「制御」です。
この概念は、「振動制御」と捉えるのが一般的である。すなわち、主要要素である「柱」「梁」「壁」など構造物を形成する材料に変形能力・粘り強さ(靱性)があれば、入力された地震エネルギー吸収能力が増加して付加減衰効果を図るメカニズムなのです。
また、「制震」の目的は入力地震エネルギーを「機械的要素=装置」で効率よく吸収する。その結果として、建物の揺れをほどなく減衰させて構造物の自立とな るのです。大地震時に受けた損傷を「機械的要素=装置」に集中させるため、「装置」だけの交換で建築物の建て替えとならない利点とか、「耐震」では対処し にくい高層建物や塔状建物の耐風対策としての「振動低減」も図ることとなります。
地震入力エネルギー吸収は、「機械的要素=装置」と建築物全体の減衰機構と密接に絡み消費エネルギーに換算され、地盤に戻るエネルギーとなって「収束」いたします。
「制震」の分類には、「パッシブ制震」と「アクティブ制震」に大別され、「アクティブ制震」の中に「セミアクティブ制震」と細分化されています。
主だったものだけ列挙すると
「パッシブ制震」→ マスダンパー、スロッシングダンパー、履歴型ダンパー
摩擦ダンパー、制震座屈拘束筋かい、粘性ダンパー
粘弾性ダンパー、オイルダンパー
「アクティブ制震」→ マスダンパー、リンクダンパー
「セミアクティブ制震」→ オイルダンパー、MRダンパー
構造物の自立(その6)
構造物が自立している論理の中で、前回ふれましたが世の中は、「構造物の自立」に対して、「耐震」「制震」「免震」と突き進んでいます。今回から、「破壊」をこの3つの局面から思考して参ります。最後に、「免震」に関するものです。
(その3)にありましたように、1935年、棚橋諒Drは 「柔剛論争」の優劣ではなくて構造物の終局(破壊)までに蓄えるポテンシャルエネルギー量が耐震性を決定付けると示され論争の収束となり、「機械的要素= 装置」によってエネルギー吸収を図る「免震」の考え方になります。
「免震」は、1891年河合浩蔵Drとか、1909年英国人医師のJ.A.Calantarientsの特許など最古の歴史をもち、関東大震災の翌年(1924年)から色々な提案となりました。
後に「震度法」「高層建物」「振動応答解析」となり1981年の新耐震で「免震」が解禁となり普及・進化への道を歩んでいます。
「免震」の考え方は、「振動から免れる」すなわち、地動する挙動との「絶縁」である。地盤からの絶縁は、「浮かす」「転がす」「滑らす」「支える」などです。先人の英知でも解決の糸口を模索する中、1979年多田英之Drによる「積層ゴムアイソレータ」の研究開発です。
「アイソレータ」とは、地震動を遮断しようとする免震装置です。
これらの種類には「積層ゴム」「すべり支承」「転がり支承」があり、「積層ゴム」が多用され、「天然ゴム系」「鉛プラグ挿入型」「高減衰ゴム系」があります。
免震建物の地震時挙動を考えると、建物を揺らす慣性力として「上部構造の頑強性」が重要視され、高さ方向に等しい分布の入力エネルギー吸収であり一般に 「基礎部」に設けられる「免震層」に変形集中させます。最近では、基礎免震や中間階免震もある。中間階免震は、「免震層」の上下関係の入力地震動から「一 種の制御型免震」とも言える。
また、近年、「アイソレータ」を無限にある「空気」を利用した「エアー免震」も開発され様々な試みが低層建物へ波及しています。水平・上下制御の3次元免 震の開発ではより高い圧力の空気バネ利用で高層建物への適用範囲も拡大されるでしょう。初期の「滑石(雲母)」を「アイソレータ」とした英国人医師の時代 から一世紀を過ぎて東北大では、「磁気浮上型超伝導免震システム」も開発中ですが、今後の課題として「浮上力の改善」「制動技術の確立」「鉛直振動抑制効 果」「冷却システム技術の構築」で早期の実用化導入を目指しています。技術立国の我が国・日本は地震大国です。
大地震に対する対策に世界の「第2位」では許されない。