(R元年10月15日)
告示1103号 (その1)
告示1103号 (その1)
平成10(1998)年の建築基準法改正により、昭和56(1981)年建設省告示第1103号が廃止となりました。思い出の多い告示です。鉄骨製作工場に「グレード」を付けて品質確保を目的としながら、実際には各工場の「格差」を生むことになり、企業の存在意義に関わるものでした。
私の故郷の地方都市は約5万人の人口の町ですが、主だった鉄骨製作工場が4~5社あり
受注合戦の日々に明け暮れておりました。
当方にご相談を受けた某鉄骨製作工場は、中堅企業ながら、社長様の「資本」の卓越した「資産家」でもあり、突然の「ロボット工場」棟の立案・構築にご協力いたしました。
それが、法改正により「告示1103号の廃止」なのですから・・・ロボット導入リース費用の残債のみ残る結果から「政策与党」の恨みまで聞こえてきました。
我が国の建築工事の中で、「鉄骨造」の割合はかなり多い。わずかなton数の軽微な建物
から超高層ビルまで関わりのある「鉄骨製作工場」について考えます。
上記にあるように平成12年に今まであった「告示1103号」が廃止されました。
我が国には、「全構連」や「鉄建協」などの鉄骨製作工場の諸団体があります。
「結社の自由」は日本国憲法に保障されている限り、自由です。
これらの団体の設立目的は
「全構連」の場合
・鋼構造物製造及び工事業にかかわる企業の経営及び技術の総合的な改善向上
・鉄骨塔建設用金属製品に関する調査研究により技術の改善向上
・鉄構業及びその関連産業の健全な発展
・国民の良好なる住生活の確保
「鉄建協」の場合
鉄骨建設業を経済的、社会的及び技術的に向上させ、その健全なる発展を図り、国民生活の向上と社会基盤の充実に寄与する
と両団体とも類似したもっともな内容です。
「全構連」の会員構成は正会員として都道府県単位に準じて47団体、構成企業は2019年6月7日現在、2,212社にのぼっています。
鉄骨製作工場が適正な品質の建築鉄骨を生産・供給するために必要な品質確保能力と技術力を保有して発注者に証明されるものであるなら、「大樹の陰」による政治的な権力抗争に
加担すべきものではないのは当然なのです。
「国政選挙」が近づきますと、各候補者の事務所に「推薦状」などが掲載されております。その掲載団体と政治家との「癒着」も問題視されます。
(R元年10月25日)
告示1103号 (その2)
告示1103号 (その2)
最近、沖縄県や北海道の構造実務のご支援では、必ず「本土との格差」が問題となります。それは、受注金額の低廉さです。本土の6割で「経済」が低い価格で循環しているのです。
考えてみれば、「政府からの地方振興策」と称した「振興予算」が根付いており、歴代の
知事さんにとってはその「予算確保」に県民・道民目線から乖離してしまうのでしょう。
さて、鉄骨製作工場に「グレード」という「レッテル」を貼られると、このような「振興予算」にたよる経済圏ではどうなるかです。
北海道では、昨年より1,000㎡を超える建物の「確認申請」の受付を「各地の振興局(本土でいう土木事務所)」で取り扱いを停止してすべて北海道庁で一元管理しています。
ですから「民間確認検査機関」への申請が以前にもまして更に多くなっています。
民間の確認検査機関に提出しても、法第6条の2第5項により、「民間確認検査機関」は
「確認済証」など交付した場合には「確認審査報告書」を特定行政庁へ提出を義務付け
ています。「小泉内閣」の「規制緩和」に中央官僚による「予防線」なのです。
告示1103号が廃止されたあと、法改正により「性能評価」へ移行することになったのです。
その結果、「鉄骨製作工場認定制度」が再スタートいたしました。
工場認定制度では、鉄骨製作工場で製作される建築鉄骨の品質保証(特に溶接部)の信頼度を
評価し、評価結果に基づき国土交通大臣が認定しています。
そうなると、当然のことながら鉄骨の品質は、鉄骨製作に関わる品質確保能力と技術力が有効に機能する必要があり、工場認定ではその点について厳正な審査・評価をして確保
する仕組みになっています。
(R元年11月05日)
告示1103号 (その3)
告示1103号 (その3)
告示1103号が廃止されたあと、「性能評価」へ移行することになったのですが、「鉄骨
製作工場認定制度」に関して一抹の不安や疑問を感じることがあります。
工場認定制度では、以下の点を審査・評価します。
・品質管理体制 (組織、管理技術者)
・社内基準の内容
・製造設備・検査設備の種類と管理
・製作実績および研究開発能力
・製作および品質管理の実施体制
このような項目は、「報告書」の作成と地方都市に出向く「審査・評価者」の裁量にもよる
部分が問題視されます。県庁所在地にある「国立大学の教授クラス」が雇われています。
本来なら、「国土交通大臣が認定」なら中央官庁の担当者や地方整備局の国家公務員のみで
審査・評価すべき性質のものであるべきです。
聞くところによると、「グレード維持」によからぬ支出で接待交際費もあるようです。
工場認定制度の根幹が否定されていると同じです。「構造スリット」の施工不良と同様に
是非、「実態把握」が必要であり、利害関係のない第三者にて行われるべきです。
鉄骨製作工場の幹部の方から「ミルシート」などどうでもなると聞いたこともあります。
やはり、根底から「性善説」は崩れているようです。しっかりと「法改正」すべきです。
建築基準法の改正により、「鉄骨製作工場認定業務」は、株式会社日本鉄骨評価センターに移管されていますので、この組織の公平な審査・評価も当然調査対象になります。
この会社は一応、国土交通大臣指定性能評価機関となっています。
次回は、この国土交通大臣指定性能評価機関が定める「グレード」について述べます。
(R元年11月15日)
認定グレードと適用範囲 (その4)
認定グレードと適用範囲 (その4)
建築基準法の改正により、「鉄骨製作工場認定業務」は、株式会社日本鉄骨評価セン
ターに移管されていますので、この組織の公平な審査・評価も当然調査対象になります。
この会社は一応、国土交通大臣指定性能評価機関となっています。
この国土交通大臣指定性能評価機関が定める「グレード」について概要を述べます。
建物規模・使用鋼材の適用範囲に応じて、5つ(S、H、M、R、J)に区分して認定がある。
【Sグレード】
建物規模において、鉄骨溶接構造の建築物 → 制限なし
使用鋼材において、鋼種 → 制限なし
最大板厚 → 制限なし
開先加工を施さない
・通しダイアフラム → 制限なし
・ベースプレート → 制限なし
・ノンダイアフラム形式柱梁接合部パネルの最大板厚 → 制限なし
【Hグレード】
建物規模において、鉄骨溶接構造の建築物 → 制限なし
使用鋼材において、鋼種 → 520N、490N、400N級
最大板厚 → 60㎜
開先加工を施さない
・通しダイアフラム → 制限なし
・ベースプレート → 制限なし
・ノンダイアフラム形式柱梁接合部パネルの最大板厚 → 制限なし
【Mグレード】
建物規模において、鉄骨溶接構造の建築物 → 制限なし
使用鋼材において、鋼種 → 490N、400N級
最大板厚 → 40㎜
開先加工を施さない
・通しダイアフラム → 制限なし
・ベースプレート → 制限なし
・ノンダイアフラム形式柱梁接合部パネルの最大板厚 → 制限なし
【Rグレード】
建物規模において、鉄骨溶接構造の建築物 → 5階以下
延べ床3,000㎡以内
高さ20m以下
使用鋼材において、鋼種 → 490N、400N級
最大板厚 → 25㎜
開先加工を施さない
・通しダイアフラム → 22㎜~75㎜
溶接方法、鋼種による
・ベースプレート → 22㎜~75㎜
溶接方法、鋼種による
・ノンダイアフラム形式柱梁接合部パネルの最大板厚 → 22㎜~75㎜
溶接方法、鋼種による
【Jグレード】
建物規模において、鉄骨溶接構造の建築物 → 3階以下
延べ床500㎡以内
高さ13 m以下
軒高さ10 m以下
使用鋼材において、鋼種 → 400N級 (但し、通しダイアフラムは490N、400N級)
最大板厚 → 16㎜
開先加工を施さない
・通しダイアフラム → 22㎜~75㎜
溶接方法、鋼種による
・ベースプレート → 22㎜~75㎜
溶接方法、鋼種による
・ノンダイアフラム形式柱梁接合部パネルの最大板厚 → 22㎜~75㎜
溶接方法、鋼種による
(R元年11月25日)
認定グレードと適用範囲 (その5)
認定グレードと適用範囲 (その5)
国土交通大臣指定性能評価機関が定める「グレード」について詳しく述べます。
【Sグレード】
・すべての建築鉄骨溶接構造とする。
・使用する鋼種および溶接材料に適合した、適切な作業条件を自主的に計画し、適切な
品質の鉄骨を製作できる体制を整えている。
【Hグレード】
・鉄骨溶接構造の400N、490N、520N級炭素鋼で板厚60㎜以下の鋼材とする。
[開先なし]の板厚は、400N、490N、520N級炭素鋼で板厚70㎜以下の鋼材とする。
ベースプレートの板厚、Gコラム・STコラムのパネル内部の板厚は、溶接方法、鋼種、
板厚に応じた適切な予熱を行った上で溶接を行うことにより60㎜を超えることができる。
・作業条件は下向き、横向き、立向き姿勢とする。溶接技能者の資格はSA-3F、SA-3H、
SA-3Vまたは、A-3F、A-3H、A-3Vとする。
・鋼種と溶接材料の組合せによる入熱およびパス間温度の管理値は、別記に従う。
【Mグレード】
・鉄骨溶接構造の400N、490N級炭素鋼で板厚40㎜以下の鋼材とする。
[開先なし]の板厚は、400N、490N級炭素鋼で板厚50㎜以下の鋼材とする。
ベースプレートの板厚、Gコラム・STコラムのパネル内部の板厚は、溶接方法、鋼種、
板厚に応じた適切な予熱を行った上で溶接を行うことにより40㎜を超えることができる。
・作業条件は下向き、横向き姿勢とする。溶接技能者の資格はSA-3F、SA-3Hまたは、A-3F、A-3Hとする。
・鋼種と溶接材料の組合せによる入熱およびパス間温度の管理値は、別記に従う。
【Rグレード】
・鉄骨溶接構造の5階以下の建築物(延べ床面積3,000㎡以内、高さ20 m以下)とする。
・400N、490N級炭素鋼で板厚25㎜以下の鋼材とする。
[開先なし]の板厚は、400N、490N級炭素鋼で板厚32㎜以下の鋼材とする。
ベースプレートの板厚、Gコラム・STコラムのパネル内部の板厚は、別記による。
・作業条件は原則として下向き姿勢とし、溶接技能者の資格はSA-3F、SA-3Hとする。
横向き姿勢を用いる場合、溶接技能者の資格はSA-3F、SA-3HまたはA-3F、A-3Hとし、横向き姿勢による完全溶け込み溶接部の超音波探傷検査は全数とする。
・鋼種と溶接材料の組合せによる入熱およびパス間温度の管理値は、別記に従う。
【Jグレード】
・鉄骨溶接構造の3階以下の建築物(延べ床面積500㎡以内、高さ13 m以下かつ軒高さ
10 m以下)とする。
・400N、490N級炭素鋼で板厚16㎜以下の鋼材とする。
[開先なし]の板厚は、400N、490N級炭素鋼で板厚22㎜以下の鋼材とする。
ベースプレートの板厚、Gコラム・STコラムのパネル内部の板厚は、別記による。
・作業条件は原則として下向き姿勢とし、溶接技能者の資格はSA-2F又はA-2Fとする。
横向き姿勢を用いる場合、溶接技能者の資格はSA-2F、SA-2HまたはA-2F、A-2Hとし、かつ溶接管理技術者は、WES2級又は鉄骨製作管理者2級あるいは管理の実務を
資格取得後3年経験した2級建築士の資格を保有していること。
横向き姿勢による完全溶け込み溶接部の超音波探傷検査は全数とする。
・鋼種と溶接材料の組合せによる入熱およびパス間温度の管理値は、別記に従う。
(R元年12月05日)
認定グレードの維持 (その6)
認定グレードの維持 (その6)
前回、国土交通大臣指定性能評価機関が定める「グレード」について詳しく述べたので
このグレード維持と適正な「企業経営」のあり方を考えます。
「全構連」の構成員企業は、2019年6月7日現在で2,212社にのぼります。
日本全国の建築着工数の多くが「鉄骨建築」です。それもわずかなton数から何千tonにもなる超高層建築物までさまざまです。
そこで、「鉄骨製作工場」の「グレード維持」について溶接技能者の資格取得や維持コストを経営面から絞ると、当然のこと、その地域での「受注ton数」が関わります。
主な鉄骨工事に関係する資格を列記しますと下記のようになります。
・建築鉄骨溶接技能者 (AW資格)
・溶接管理技術者
・溶接技能者
・CTW認定検査事業者
・非破壊検査技術者
・建築鉄骨製品検査技術者
・建築鉄骨超音波技術者
・鉄骨工事管理責任者
・建築高力ボルト接合技術者
・溶融亜鉛メッキ高力ボルト接合施工技術者
・スタッド接合技術証明書
などがありますが、特に重要なものは「溶接技能者」で、この資格について簡単に述べる。
鋼構造物の製作における溶接作業に従事する技能者の資格である。
手溶接(アーク溶接・ガス溶接)、半自動溶接、すみ肉溶接、基礎杭溶接などの資格がある。
資格にある記号であるが例えば「SA-3F」なら、
Sとは「半自動溶接」、Aとは「裏当てあり」、3とは「厚板」、Fとは「下向き」を示す。
この資格取得に企業経営者には「コスト」が掛かり、維持にも「講習」が義務付けられる。
そうなると、「Hグレード」の作業条件の中にある溶接資格者と「Mグレード」など
下位の「グレード」との比較を検討すれば、「維持コスト」もおのずと見えてくる。
過日、北海道の方から聞いたのは、「1つグレード」を下げると3万円 / tonの廉価との事。
「過剰なグレード維持」や「ステータス」にこだわりすぎると、発注側から敬遠となる。
200 tonクラスの「鉄骨製作工場」を1つ「グレード」を下げるだけで、600万円のコスト
ダウンとなるのです。使用する鋼材板厚に注意しながら「選択肢」となってしまうのです。
今一度、「グレード」を見つめ直すべきであると考えます。