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付着割裂破壊を考える

(H27年07月25日)

付着と割裂(その1)

「付着」とは、物が他の物にくっつくことで、境界面に生じる滑り抵抗の性状である。「割裂」とは、結びついていたものを切り離すであり、滑りから押し開き変位性状である。毎日「実務」の中、特に多い指摘事項に「付着割裂破壊」がある。当然、その「破壊」や「理論」についてです。基本的には「異形鉄筋」の場合を対象にしています。

「付着割裂破壊」は、コンクリートと異形鉄筋の間で起こる破壊形式であり、脆性破壊とも言われ避けなければ優れた塑性変形能力の維持とはならない。
そもそも、これは「bond splitting failure」と英訳され、複合材の構成材料間での「接線応力度(=付着応力度)」が増加してくると、例えばRC造の場合、コンクリートと鉄筋の間に滑りが生じて、鉄筋は節(ふし)の部分でコンクリートを押し開きながら変位性状を示す。結果として、リングテンション(環状引張力)が節部分に発生し、かぶり厚さの少ない薄い構造面で鉄筋に沿って「縦ひび割れ」を生じさせる。

許容付着応力度自体の大きさも、日本建築学会の「RC構造計算規準・同解説」においては1991年版までの規定値は周辺コンクリート(かぶり)を割り裂く「付着劣化が卓越する特性」を十分反映していなかった。そこで1999や2010年版では、異形鉄筋が正負繰返しの高い応力度(付着τと割裂σn)を受ける場合、応力度のベクトル合成で「節(ふし)」によるリングテンション(=環状引張り)から「くさび作用」が異形鉄筋に沿った割裂ひび割れを増大させ「付着割裂破壊」を引き起こす可能性について言及しています。

上記でも触れている「かぶり厚さ」が安全性確保にも重要な防止要因でもあり、「付着割裂の基準となる強度fb」で示されたのです。また、曲げ付着応力度で は「平面保持の仮定」を用いて算定しているが、この応力度の問題点として「せん断力の大きい部材」では平面保持仮定が成立しない。

長期荷重→「使用限界」→付着割裂ひび割れや過大な補強筋に沿うすべり防止
中地震動程度の短期荷重→「損傷限界」→付着割裂破壊に起因する曲げ・せん断破壊防止
大地震動→「安全限界」→付着割裂破壊に起因する曲げ・せん断終局強度の低下防止確保という設計目標から規準(16.1)式及び規準(16.3)式を示しているが、これらの規準式を満足しない場合は、「平均付着応力度」による検定となる。

(H27年08月05日)

付着と割裂(その2)


前回の記述にあるように、許容付着応力度自体の大きさについても、日本建築学会の「RC構造計算規準・同解説」においては1991年版までの規定値は周辺コンクリート(かぶり)を割り裂く「付着劣化が卓越する特性」を十分反映していなかった。

そこで1999や2010年版では、異形鉄筋が正負繰返しの高い応力度(付着τと割裂σn)を受ける場合、応力度のベクトル合成で「節(ふし)」によるリングテンションから「くさび作用」が異形鉄筋に沿った割裂ひび割れを増大させ「付着割裂破壊」を引き起こす可能性について言及しています。
適合性判定の指摘の背景は、上記の「RC規準(2010年版)」よる「付着の規定」の改定です。



今、一度整理してみると以下となります。

一次設計時の検討→「RC規準(1991年版)」の曲げ付着と定着付着の復活。
         付着の検討は、ルート1~3まで全て「RC規準(1991年版)」で検討。

終局時の検討→「RC規準(1999年版)」の付着割裂強度に基づく設計法を採用。
        付着割裂の検討は、「強度抵抗型」のルート1、2-1、2-2では省略出来る。
        Ptが大、高強度(Fc・SD)使用、カットオフ筋の場合付着割裂検討が重要。
        付着割裂の検討方法は、「RC規準(1999年版)」の16条・17条。
        「RC規準(1999年版)」の16条式で「σt→σy」に置換すると
        大地震動に対する安全性確保の検討の「RC規準(2010年版)」の規定式。

付着割裂の検討式→「技術基準解説書2007年版」/ (黄色本)
         「RC規準(2010年版)」/ (学会本)
         「RC造建物の靱性保証型耐震設計指針・同解説」/ (靱性指針本)
         「評定・評価を踏まえた高層建築物の構造設計実務」/ (センター本)

(H27年08月15日)

付着と割裂(その3)


性能設計移行へのプロセスとして以下に示す「靱性指針本」があります。
「RC造建物の靱性保証型耐震設計指針・同解説」の大きな特色は
(1) 応答変形による限界状態を意識→目標耐震性能の枠組み規定を明確化
(2) 設計行為→「断面を決める手段」から「性能目標値の満足」へ
(3) 設計プロセスや解析手法→設計者の選択に委ねる
(4) 2方向地震動に対する設計の考え方を明確化
(5) 潜在ヒンジ領域の新概念導入→柱の曲げ設計の自由度を拡大
(6) 最新の研究成果を反映→部材の算定式充実、配筋詳細の仕様規定の減で直接評価
(7) 曲げと変動軸力→必要靱性確保に横補強筋拘束量を定量化
(8) 新性能確認法の具体的手順を実務例で提示
今後は、より明快な「性能規定指向型」の耐震設計指針として発展的に制定される。
さて、このように「靱性指針本」も含めて、付着や割裂の破壊要因としている
「脆性破壊」や「その他の構造上支障のある急激な耐力の低下のおそれのある破壊」を
避ける必要性は、「健全な塑性変形能力」の維持に他なりません。
では、実務対応ではどうするかについて論じます。
当然、「柱」や「梁」に関する付着割裂破壊の検討の必要性であったりいたします。
そこで、「技術基準解説書2007年版」/ (黄色本)に限定して解説します。



「柱」に関する付着割裂破壊の検討については
付着割裂破壊の防止の判定式→P-630の(付1.3-20)式とP-631の(付1.3-21)式
主筋の付着強度→P-631の(付1.3-22)式

「梁」に関する付着割裂破壊の検討については
主筋の付着強度→P-631の(付1.3-22)式
脆性破壊形式→作用軸方向力が小、被害例でせん断破壊が中心、スラブコンクリート効果
梁の検討で必要がある場合→シャースパン比が2.5程度以下、引張鉄筋の一列多段配筋。

(H27年08月25日)

付着と割裂(その4)

毎日「実務」の中、特に多い指摘事項に「付着割裂破壊」について実務対応での検討を「異形鉄筋」の場合を対象に方法論を記述します。「付着割裂破壊」が何故発生するのか、どういう場合に発生しやすいのか。それによってこの破壊の検討の必要性についても(その1)~(その3)で解説いたしました。

「黄色本」のP-362にある告示文の一にある表をつぶさに見れば「意図している事」が手に取るように理解出来ます。「柱及びはりの区分」を横軸に、「部材」「条件」を縦軸に「マトリックス表現」です。この表の中でも重要なものは、「破壊の形式」と「指標」の欄にある「-」表示です。当然、この「-」表示欄は該当しない・させないと考えれば「必要性」の結論となります。

では、「付着割裂破壊」に関しての「指標」はどれか・・・当然、「Ptの数値」欄です。そこには、「柱及びはりの種別」がFCになると、「-」表示となっています。「破壊の形式」からは、「FA」「FB」「FC」欄を含ませています。この「破壊の形式」は、一般に「脆性破壊」と呼ばれ塑性変形能力に大きく影響します。

(H27年09月05日)

付着と割裂(その5)

前回より実務における「付着割裂破壊」について論じています。

引き続き、「柱」や「梁」に対してこの破壊の検討の必要、不必要に付き述べます。

まず、「柱」について

ICBAという(財団法人)建築行政情報センターから「構造関係基準に関するQ&A」がHPを通じて公表しています。その【質疑No,88】が該当いたします。

・標準的な配筋であれば、引張鉄筋比Ptの制限値を目安に付着割裂の検討が可能ですが

 その制限値を超えた場合や、特別な配筋の場合は、別途付着割裂に関する検討を行って

 部材種別を判定することになります。

この文面趣旨から「部材種別の判定」が主であり、引張鉄筋比Ptの制限値をもって付着

割裂破壊の防止を目的したものと(黄色本P-367)記述のあるとおりです。

前ページで述べたとおり、柱の部材種別ではPt≧1%で「FAやFB」のランク外となる。

引張鉄筋比Ptの値は「FAやFB」を判断するものです。

ですから、「FCやFD」の靱性(粘り)のない判断は他の方法となる訳です。

次に、「梁」について

ここでは、前ページで述べた「2007年版 建築物の構造関係技術基準解説書(黄色本)」に

よってP-367の下から5行目から検討不要の理由が述べられています。

・過去の地震被害の事例からせん断破壊が中心であり、付着割裂破壊はあまりない。

・梁の脆性破壊形式として、作用する軸方向力が小さいため、せん断系のものが主となる。

・上端引張りに対してはスラブコンクリートの効果があり、下端引張りについては、一般に鉄筋比が小さく、主筋の応力度勾配が小さい。

逆に、検討必要な場合の目安とは

・逆対称応力を受けるせん断スパン(せん断力が一定と見なされる区間の長さ)比が2.5

程度以下と小さく引張主筋を一列に多数配筋する場合。

・太い鉄筋径(D29以上)や降伏点の高い(SD390以上)鉄筋を使用している場合。

(H27年09月15日)

付着と割裂(その6)

指摘事項の多い「付着割裂破壊」の検討をまとめます。

「対応」とか「考え方」はその時々の構造形式やメカニズム状態(構造性状)で変化します。

基本的には「設計の工学的判断」であり、他の設計法もあり、この優先順位に限定としている訳ではありません。

検討の進め方ですが、「柱」の場合

(1)「付着割裂破壊」の検討が必要かどうか判定する→ICBAの【質疑No,88】による方法

(2) 引張鉄筋比Pt≧1%の「FC」の場合→①黄色本P-630の(付1.3-20)式

(nφ2σy/4)≦k×0.31√Fc・Y(a-lh)

(この式は2段筋、カットオフ筋は適用外)

②ICBAの【質疑No,65】による方法

(1999年RC規準のσtをσyに置換)

③RC造靱性指針本によるτf ≤τbuによる方法

(柱と梁に適用可能)

次に、「梁」の場合

(1) ICBAの【質疑No,65】による方法(1999年RC規準のσtをσyに置換)

(2) RC造靱性指針本によるτf ≤τbuによる方法

(3) ICBAの【質疑No,29】による方法(荒川式によるせん断破壊の有無)

↳カットオフ筋は適用不可、通し筋のみ



以上、一貫計算ソフトメーカーにも「対応方法」を示すものもあります。

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