(H27年01月25日)
伸び能力(その1)
平成7(1995)年の兵庫県南部地震において柱脚の不適切な設計・施工を原因とする被害
が数多く発生し、中には倒壊、大破等の大きな被害に至りました。政府は一層の安全性の確保の観点から大臣告示として 告示 平12建告第1456号 を制定しました。
兵庫県南部地震では「露出型柱脚」に特に被害が多く、その内容はアンカーボルト関連で
損傷、破断、抜け出し、伸び等です。この中において、「伸び能力」にテーマを絞ります。
告示第1456号において、仕様規定で重要なものがある。それは、第一号ロのアンカー
ボルトの戻り止め、第一号ハのアンカーボルトの定着長さについては省略出来ない。
すなわち、どの計算ルートであっても、「二重ナット等の戻り止め」と「定着長さ20dかつ
先端をかぎ状(フック)に折り曲げる、又は定着金物」の措置を取りなさいです。
なぜこのような措置を要求するのか・・・鉄骨造から基礎コンクリート造への確実な応力の伝達です。そこに健全であるべきアンカーボルトが介在しているのです。
「健全なアンカーボルト」とは、弾性域から塑性域の至る力学的挙動の中では材料特性を
十分発揮させ、変形性能をもたせる必要があり、伸び能力の有無となります。
露出型柱脚の設計上の問題点は、柱脚の認識である。固定度をどう捉えるかにより「安全性の確保・担保」に「危険側・安全側」を考慮する。
完全なピン柱脚はあり得ない。ピン柱脚は、実際には発生している曲げモーメントを無視しているが上部構造には「安全側」、しかし柱脚部には「危険側」の設計となっている。
柱の芯から距離をもってアンカーボルトを設置すれば「回転剛性(ばね)」の評価がいる。
被害軽減のためにも、「曲げモーメントの適切評価」、「崩壊メカニズム時の安定した塑性
変形能力確保」が考慮する必要なものである。
(H28年02月05日)
伸び能力(その2)
2015年版黄色本において「伸び能力のあるアンカーボルト」の定義としてP-628、
P-629に2007年版黄色本から修正して記述があります。
当然大切なのは、軸部の全断面が十分塑性変形するまでねじ部が破断しない性能です。
この規格が、また様々なのです・・・なぜこうなのか毎回疑問です。(ムラ勢力争いか)
2015年版黄色本には(社)日本鋼構造協会JSS規格、JIS規格を列記しています。
なお、この両規格は2015年3月まで併存したが、2015年4月からJSS規格が廃止
され、JIS規格のみとなっています。
・(社)日本鋼構造協会JSS規格として
JSS Ⅱ 13-2004 (建築構造用転造ねじアンカーボルト)
JSS Ⅱ 14-2004 (建築構造用切削ねじアンカーボルト)
・JIS規格(上記のJSS規格を基にしている)として
JIS B 1220 : 2010 (構造用転造両ねじアンカーボルトセット)
JIS B 1221 : 2010 (構造用切削両ねじアンカーボルトセット)
これらの規格品以外でも
・切削ねじ(並目)で素材の降伏比YRが0.7程度以下
・切削ねじ(細目)で素材の降伏比YRが0.75程度以下
・転造ねじで素材の降伏比YRが0.75程度以下
が確認できれば、「伸び能力のあるアンカーボルト」である。
ねじ部の有効断面積が軸部と同等なら、素材の降伏比によらず「伸び能力あり」です。
構造用アンカーボルト用定着板については、「建築用アンカーボルトメーカー協議会」なる
団体が推奨サイズを示しており、素材はJIS G 3101 によるSS400となっています。
(H28年02月15日)
ファブリケーター能力(その3)
その昔、昭56建告第1103号なるものが記憶にある。鉄骨加工工場に認定制度を
導入し、ランク付けを図るものでした。歴史の中で幾度なく繰り返される社会問題は
「欠陥鋼材問題」や「不良鉄骨工事問題」に資本主義社会では翻弄し続けます。
親交のあった故郷の鉄骨加工工場の社長さまの「嘆き」が脳裏をかすめます。
「明日から告第1103号は廃止」と建設大臣の記者発表でしたので、時の建設大臣を
恨むと言われ、故郷の選出選挙区の建設大臣を名指し批判です。
確かにそうです。全国各地の中小零細企業にとっては工場の「認定ランク」の取得は
死活問題です。柱はり接合部のブラケット部の作業合理化に「ロボット工場」まで
億単位の設備投資が・・・リース残だけ企業経営に重くのしかかり続けるのです。
いまだにSS400材を・・・と公共工事には使われないのに全国各地のファブリケーター
中小零細企業にとっては「告示」で明文化があるSS400材を用いています。
鉄構技術という小冊子による全国各地のファブリケーター中小零細企業に配布されて
いる書物にも「特集 露出柱脚工法」がありました。6社ほどの商品紹介となっています。
しかし、いまだに「露出柱脚金物」を用いないルート1適用の小規模な建築物が多い。
そこには、やはり設計方針の中での「経済の振り子」がメトロノームに見えます。
ルート1適用の中、ルート1-1なら即、エンドだがルート1-2の場合、支障が出る。
それは、2015年版黄色本ではP-627の付図1.2-25の設計フローにより再考を促される結果となります。ここに、ファブリケーター能力と基礎工事が密接に絡んでくるのです。
(H28年02月25日)
ファブリケーター能力(その4)
いまだにSS400材を・・・の他に、STKR材の冷間成形角形鋼管を柱に用いた
剛節 (ラーメン) 架構も同様に、STKR材に関する「告示」で明文化があるのです。
ベースプレート、アンカーボルトについては仕様規定によりボルト径の1.3倍以上の
厚さを守り、定着長さ等の措置をとりアンカーボルトの弛緩防止等の要求なのです。
ベースプレート下面と基礎上面の密着確保では、溶接肉盛による突起を放射線状に
配置するBOP特許方式に見られる工夫とか、シャープレートの十文字での高強度
グラウト充填などで対応が可能ですが、特許権利侵害には注意が必要となります。
前回の最後での記述における困りごとです。解決方法は多様にあります。
ルート1適用の中、ルート1-1なら即、エンドだがルート1-2の場合、支障が出る。
2015年版黄色本P-627の付図1.2-25の設計フローの⑥の基礎工事が密接に絡みます。
基礎コンクリートの破壊防止等の確認が出来なければサイコロは振り出しに戻ります。
解決方法は多様にあります。とは申しましたが、2015年版黄色本P-690から始まる
フロー⑥の柱脚基礎コンクリート立ち上げ部において、a)縁辺の剥落、b)立ち上げ部の
割裂、c)端部のせん断力による剥落、等を防止する必要があり、ファブリケーター以外の
基礎工事と密接に絡む理由がここにあります。
異様に、柱型が大きくなった。コンクリート基準強度Fcが通常ではない。など今迄の
経験則が通用せず「露出型柱脚」の施工要領と異なる局面に追い込まれやすくなります。
(H28年03月05日)
基礎柱型(その5)
ルート1適用の中、ルート1-1なら即、エンドだがルート1-2の場合、支障が出る。
2015年版黄色本P-627の付図1.2-25の設計フローの⑥の基礎工事が密接に絡みます。
基礎コンクリートの破壊防止等の確認が出来なければサイコロは振り出しに戻ります。
このことは、2015年版黄色本P-634の記述であるフロー⑭に該当して、ルート3で設計される建築物についても同様に検討です。
すべては、柱脚の安定した塑性変形性能を確保するため、柱脚の基礎コンクリート立ち上げ部の破壊を防止させる必要があるのです。
全国での推定鉄骨需要量はデータが少し古いが、年間約400~450万ton程度です。
「東京」約40万ton、「大阪」約35万ton、「愛知」約33万ton、「埼玉」約26万ton、
「神奈川」約20万ton、「福岡」約18万ton、「静岡」約17万ton、「「兵庫」約17万ton、・・・と続きます。やはり、関東・関西・中部の三大都市圏に集中しています。
しかし多かれ少なかれ鉄骨需要のある局面では、柱脚に基礎柱型は付いて回ります。
それもすべての計算ルートにおいて基礎柱型の破壊に対する検討が行われるのです。
検討の内容は、a)縁辺の剥落、b)立ち上げ部の割裂、c)端部のせん断力による剥落です。
(H28年03月15日)
基礎柱型(その6)
すべての計算ルートにおいて柱型の破壊に対する検討が行われるのでが、検討の内容はa)縁辺の剥落、b)立ち上げ部の割裂、c)端部のせん断力による剥落です。
破壊形式は、2015年版黄色本P-630付図1.2-27
せん断力によるコーン状破壊は、2015年版黄色本P-630付図1.2-28が参考になります。
以下に順を追って検討の条件式などを掲載しておきます。
・縁辺の剥落防止 (式記号内容は2015年版黄色本による)
ここで、Cy = nt・Ab・bσy・N
・立ち上げ部の割裂防止 (式記号内容は2015年版黄色本による)
・端部のせん断力による剥落防止 (式記号内容は2015年版黄色本による)
ここで、bτy = 、Ab = であることから
∴ e > 0.54 ・d
・Fc = 21(N/㎟)、bσy = 235(N/㎟)、cσt = 0.31 とおけば、e > 7d となる。
これは、大臣認定以外の基礎柱型寸法B×Dは今迄以上に大きくなる事を
意味しています。
・コーン状破壊耐力Qc > 柱脚に作用する最大せん断力Qd を確認する。
Qc = 0.31・(=0.6)・Ac